年齢を重ねていくに連れて、身体の痛みなどの理由からセックスから遠のいていませんか?「年齢を重ねてしまったからと諦めるのではなく、年齢を重ねた大人が楽しめる性交渉のやり方があります」と話す、富永ペインクリニック院長 富永喜代先生に、更年期以降のセクシャルウェルネス(性の健康)との向き合いを教えていただきます。
今の身体の状態を知る

「更年期以降のセクシャルウェルネスについて考えるうえで大事なのは、若い頃とは身体の柔軟性、可動域が異なるという点です。
日本人女性の50代以降の約50%は、程度の差はありますが変形性膝関節症と言われています。女性の場合、40代までは女性ホルモンのエストロゲンが痛み止めの役割をしていることもあり、痛みに気が付きにくいことを踏まえると、もっと多くの人が早いうちから発症していると考えられます。そして、この割合は、60代で60%、70代で70%……と増えていきます。
加えて、女性の3人に1人は変形性股関節症に悩んでいるとされていますし、変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアなど、いわゆる腰痛も年齢を重ねると増加します。このように身体の痛みを抱えた状態では、気持ちのよいセックスをする以前に、セックスをしたいという気持ちが起こらないのは当然と言えます。
まずは、今の身体の状態を知り、適した改善法、必要な予防法を取り入れていくことが更年期以降のセクシャルウェルネスにはとても重要です」(富永喜代先生・以下同)
筋力と柔軟性は必要不可欠
「更年期以降のセクシャルウェルネスに大事なのは大きくふたつあります。
ひとつめは筋力です。筋肉量は加齢の影響を受けて減少してしまいます。しかし、重力は変わらないため弱くなった筋肉をカバーしようと骨が頑張ることで関節の痛みが起こりやすくなります。ウォーキングや無理のない範囲で行うウェイトトレーニングなど運動習慣を身につけ、筋肉を減らさないようにしましょう。
そして、もうひとつは可動域です。運動とあわせて習慣化したいのは、柔軟性を高めてくれるストレッチ。私も実践しているストレッチは、足を肩幅ほど広げ、スクワットの姿勢を取ります。その状態で両手を両膝について、身体を左右にゆっくり大きく捻ります。
呼吸が止まらないように無理のない範囲で続けてみてください。自分のペースで少しずつ負荷を増やしていくことで、股関節周辺に筋肉がつき、柔軟性も高まります」
骨の健康を意識しよう
「更年期以降の健康状態で自覚にしにくいのが、骨の変化です。怖い話ですが、更年期以降に増える腰椎圧迫骨折は、何もしなくても重力の負荷だけで起きてしまいます。骨の健康もセクシャルウェルネスには欠かせません。
骨の健康状態は自覚しにくいとあって、自分の意識と実際が大きく異なっているケースがほとんどです。これまでと同じような運動や食生活で維持ができると思わず、日頃からしっかり意識をして生活していきましょう。一度、骨密度検査を受けるのもいいと思います」
【骨の健康にはビタミンDが必要!過度な紫外線対策は要注意】
性行為ではなく性交渉
「久しぶりのセックスの場合、若い頃に楽しんだかもしれないアクロバティックな体位は禁物です。ならば、正統派な正常位という考えも要注意!
その理由は、脚を大きく広げ、膝を曲げるという正常位の姿勢は、腰椎と股関節の負担が大きいからです。そのうえ、パートナーの体重が乗ってくると、年齢を重ねた女性にはハードな体位になってしまいます。そのことをカップルで認識しておくこと必要がです。
当然ながら、性交渉をする相手によって、痛みも感じ方も変わってきます。自分の身体と心の感覚を観察し、自分にとって快感を得られるやり方を相手と上手に交渉していく。セックスは日本語で性行為と訳されることが多いですが、本来は性交渉です。これまで経験を重ねてきた更年期以降のセクシャルウェルネスはまさに性交渉になります」
更年期以降に性交渉の心得

●負担が少ない体位で行う
「バブル時代にブームとなった駅弁と言われる立位対面位は、ぎっくり腰になる危険性があります。
代わりにおすすめしたいのは、【対面座位】やいわゆる寝バックと言われる【後背位】です。ただ、これも負担が少ない方とはいえ、人によっては痛みを感じる場合もあります。その場合は、【腰の下にクッションを当てての正常位】を試してみてください。腰と股関節への負担が少なくなるため、快感に集中しやすくなります」
●クッションを活用する
「更年期以降は、ベッドにクッションを準備しておきましょう。例えば、前戯でクンニリングスをしてもらう時、正常位で骨盤が思うように持ち上がらない場合などは、腰にクッションを置くことで負荷が軽減されます。
クンニリングスの際は、クッションによって女性の腰が上がることで、パートナーの首に負担をかけることなく行為ができるため、どちらにもメリットがあります」
●手を握ってコミュニケーションを取る
「性交渉といえども、相手の顔が見えない行為もありますし、希望を口に出して伝えにくいこともあると思います。そんな時は、手を握ってコミュニケーションをはかりましょう。
例えば、気持ちがいい、痛いなどの反応を、手をぎゅっと握ることで伝えることができます。表情がいつもわかるわけではないからこそ、その他の感覚を使ってコミュニケーションを取りながら、息を合わせていきましょう。」
●きちんと伝える
「性交渉には、パートナーに安心して身体と気持ちを預けられる関係性であることは最低条件です。そのためには、自分自身がどんなことに快感なのか、逆にどんなことが嫌なのかを知ることから。そして、パートナーにきちんと伝えましょう。
長年の夫婦・カップルの場合、以前は好きだったことが年齢を重ねて好きではなくなっていることもあります。もし変化が起きていた時は、そのことも伝えてくださいね」
●マンネリを打破する
「マンネリを打破しようとする気持ちはとても大事です。小さな羞恥心が刺激になることもありますし、例えば、コスプレなど、若い時にしなかったことを試してみるのもいいと思います。
また、女性はエストロゲンが減ってくると性的な刺激を受けにくくなるため、自ら興奮しやすい状態に持っていくことも時には必要です。プレジャートイを活用してみるもよし、寝室以外の場所で楽しんでみるのもいいでしょう。
寝室以外の場所としてよく挙がるのがお風呂です。水がある場所のため、怪我をしやすいという危険もありますので、けがや転倒防止策は取り入れてください。その時におすすめなのが、介護用品として用いられることが多い滑り止めマットや手すりなどです。年齢を重ねているということを受け入れ、情報をアップデートさせていくこともマンネリの打破につながります」
経験値の分、楽しめる!
「年齢を重ねると経験値が高まっていますので、更年期以降の性交渉は楽しくなってくるものです。妊娠を気にしないで楽しめるという点も、更年期以降の大きなメリットです。
ただし、身体は若い頃と同じとはいきません。今の身体の状態を知ったうえで、相手とのコミュニケーションを重ねて、更年期以降ならでの充実した性交渉を楽しんでくださいね」
執筆/瀬戸ゆずき
No.00191
2025年11月7日リリース