性欲は、三大欲求のひとつとされています。その言葉の意味を辞書で調べると、“性的な満足を得るための、肉体的な欲望。肉欲”とまとめられています。言葉は知っていても、性欲がなんのためにあるのか、性欲を感じる仕組みを知らない人も多いのではないでしょうか。
そこで、産婦人科医であり、美容視点からのアプローチで美容婦人科指導医としても活動する宮本亜希子先生に教えていただきました。
性欲は生物としての役割を果たすための欲求
「実は性欲に関して医学的な定義はありません。食欲・睡眠欲と並んで三大欲求のひとつと言われていますが、それにも諸説あるとされ、性欲が本能的な欲求であるとは言い切れないところがあります。
また、睡眠欲と食欲は自分という個体を守るための欲求です。その理由は、睡眠や食事は取らないでいるといずれ生命の危機に陥ってしまうから。その一方で性欲は、満たさなくても生命の危機には陥りません。次世代に遺伝子を残そうとする、生物としての役割を果たそうとするための欲求と言えます。一概に三大欲求と言っても、性欲は担っている事柄が異なります」(宮本先生・以下同)
性欲はテストステロンによって感じる
「性欲を感じるプロセスには、大前提として個人差がありますが、男性ホルモンと言われているテストステロンが関係しています。テストステロンの分泌によって性欲を感じているということです。テストステロンは男性ホルモンと表現されることが多いため男性だけが持っていると思われがちですが、女性にもあります。ただ、分泌される量は異なります。
女性のテストステロンの分泌量は男性の1/10ほど。女性に比べて男性の性欲が強いとされるのはそのためです。では、単純に女性の性欲は男性の1/10なのかというと、そこは個人差が大きいため一概には言えません」
生理前に性欲が高まるのは気のせい?
「女性の中には生理前に性欲が高まると感じている人もいるようですが、厳密には排卵期に該当する時期に高まっていると考えられます。
排卵期は、女性ホルモンと言われているエストロゲンが分泌されている時期です。エストロゲンは肌や髪にうるおいを与えてくれるなど、嬉しい作用があります。それは、女性を魅力的に見せてくれているとも言えるので、気持ちの面でもポジティブな時期。そして、この時期にはテストステロンも分泌されていることもあって、より性欲の高まりを感じやすいというのはおおいにあります。
ただし、女性ホルモンは妊娠のためのホルモンなので性欲には直結していません」
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性欲とオキシトシンの関係
「性欲が高まる、感じるプロセスには、もちろん個人差がありますが、男女によっても違いがあります。
男性は視覚的感受性が強いため、顔や体型などの視覚からの情報で性欲が高まりやすいとされています。一方、女性は声や言葉など、耳からの情報で高まる、聴覚的感受性が強いです。このことから女性の性欲は精神的な面も大きく関わってきます。
聴覚的感受性が刺激されるような、例えば、会話や性行為に直結しないスキンシップなどを行うと愛情ホルモンと言われるオキシトシンが分泌されます。オキシトシンが分泌されると安心できる、寛大な気持ちになれるとされているので、相手を受け入れる気持ちが生まれることも性欲の高まりにつながっていると考えられます」
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性欲は心の健康につながる
「性欲は、意思に関係なく自然にあるものです。なくても困るものではありませんが、性欲を満たすことは心の健康にいい影響を与えてくれます。例えば、いいセックスをするとキレイになると言われることがありますが、その背景には性欲が満たされていることで自己肯定感も同時に満たされているから。
もしかしたら、性欲を感じないという人もいるかもしれません。抗テストステロン作用のあるピルを服用している場合は性欲が感じにくくなることもありますし、過去の経験からのトラウマや、現在抱えている心理的な要因が関係している可能性も考えられます。
自分の性欲と向き合うことは、特に心の健康との向き合いでもあります。フタをしたり、目をそらしたりするのではなく、少しずつでも向き合う時間を作るようにしてみてください」
執筆/瀬戸ゆずき
No.00131
2024年7月19日リリース