セックスを経験したことのある日本女性のうち、約6割以上が痛みを感じたことがあるそうです(2020年ジャパンセックスサーベイ調べ)。更年期世代の女性にいたっては、実に2人に1人が行為中に痛みを感じているといいます。
日本初となる性交痛外来を開設した『富永ペインクリニック』院長であり、痛みの専門家である富永喜代先生は、「人生100年時代と言われる今、あらゆる年代の女性のセクシュアルウェルネスを考えるうえで性交痛は見逃せません」と話します。
性交痛とは、性行為に際に生じる痛み全般
「性交痛とは、性行為の際に感じる痛み全般を指します。挿入を伴うセックスに限らず、指での刺激や、舌を使ったオーラルセックスで生じる痛み、さらには腟内や腟口に限らず、クリトリスや外陰部で感じる痛みも性交痛になります。
ここが傷ついたから痛いという単純なものではなく、痛みを引き起こすさまざまな要因が絡み合いながら生じる複雑なものです」(富永先生・以下同)
性交痛を引き起こす3つの痛み
1.傷の痛みによる【侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)】
「炎症や刺激によって生じる痛みのことです。いわゆる傷や打撲などによる痛みのことを指します。
性交痛の場合は、爪が伸びていたことで皮膚にひっかき傷ができた、ガサガサな手で刺激されたことで痛みがあった。また、男性器のサイズが女性の身体に合っていない場合や、受け入れる準備ができていない状態で挿入されることによる摩擦や腟の裂傷などによって起こる痛みなどを指します。
また、加齢などの要因で女性ホルモンのエストロゲンの減少や、腟の萎縮や腟粘膜の皮膚が薄くなったことで、摩擦に弱くなり痛みを感じやすくなります。中には、腟炎を起こしているなどの病気の可能性も考えられるため、気になる場合は婦人科などを受診することをおすすめします」
2.神経が感じる慢性的な痛みである【神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)】
「長期間、強い刺激や痛みを加え続けられると、その部分の神経の質が変わってしまい、通常なら痛みを感じないようなごく軽い刺激であっても、強い痛みを感じてしまう慢性痛のことをいいます。
性行為の際、クリトリスをちょっと触れられただけで強い痛みを感じたり、特に激しいプレイをしているわけでもないのにヒリヒリと灼熱感があったりする場合が神経障害性疼痛に当たります」
3.心理的、社会的な状態から起こる【痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)
「痛覚変調性疼痛とは、痛みを感じている人自身の心理的、社会的な状態から起こる痛みのことです。
パートナーとの関係性や不安、恐怖、その他のストレスなどによって引き起こされます。パートナーに対する愛情がない状態でのセックスや、過去に苦痛なセックスの経験がある場合は、痛みを感じやすいかもしれません」
セルフケアは性交痛対策になる
「性交痛は、【侵害受容性疼痛】【神経障害性疼痛】【痛覚変調性疼痛】の要因が絡み合って起こります。傷のある場所に絆創膏を貼っておけばいいというような単純なものではなく、状況によって痛みの感じ方が変わるため、絶対的ではなく、相対的なものと考えます。
例えば、普段ひざが痛い人でも、火事などの緊急な状況だと全速力で逃げられることがありますよね。このように痛みは絶対的ではなく主観的なものでもあります。このことを踏まえたうえで、自分でできる性交痛対策をいくつかお伝えします」
●自分の女性器に慣れる
「女性器は自分の身体の大切な一部です。見ること、触れることをしてみてください。そして、顔のお手入れをするように、日常的にセルフケアを行いましょう。顔の肌と同じように、デリケートゾーンの状態も体調によって変化します。そして、肌には乾燥が大敵と言いますが、女性器も同じです。
デリケートゾーン専用のソープで外陰部を丁寧に洗い、専用のオイルを使って保湿をしましょう」
●セルフプレジャーを楽しむ
「セルフプレジャーを楽しむことは立派な性交痛対策です。セルフプレジャーに慣れていない場合は、小さめのトイや腟ダイレーター(挿入による痛みや腟萎縮などのケアアイテム)を使って慣らしていくのがいいですね。
“セックスは痛いものではなく、気持ちいいもの”という意識のルートを自分で作っていくことで、セックスに対する抵抗をなくしていくことができます。そして、セルフプレジャーを行うことはデリケートゾーンの血流改善や骨盤底筋を鍛えることにもなり、結果的に子宮脱や頻尿などを防ぐことにもつながります」
●ジェルやローションをたっぷり使う
「性行為の際は、ジェルやローションをたっぷり使いましょう。すでに性交痛を感じているという場合は、ご自身が思っている以上にたっぷりと使う必要があります。ジェルやローションで摩擦による痛みをなくしていくことで、痛くないセックスの経験を増やしていきましょう」
●必要な場合はカウンセリングに行く
「セックスによるトラウマや痛いセックスの常習化により、通常は痛くないことでも痛い、痛いことはさらに痛いと感じる場合は、神経が変性している可能性があります。専門機関を受診して、対処することをおすすめします。
その痛みを引き起こしている心理的要因を取り除いていくことで、性交痛を改善することにつながります」
性交痛は我慢しない!
富永先生は、「痛みを感じるということは対処すべきことがあるということです。我慢はよくありません」と教えてくれました。
痛みの中でも、特に性交痛は相談しにくいかもしれません。だからこそ、積極的にセルフケアを実践することが大切です。また、必要に応じてペインクリニックなどの専門機関に相談してください。まずは自分でできるデリケートゾーンケアから始め、痛みと向き合い、自分にとってのセクシュアルウェルネスを実現していきましょう。
No.00107