セクシャルウェルネス

セックスポジティブの始まりは、性の安全の確保から

『世界性の健康デー(毎年9月4日)』が制定されているほど、性と生殖に関する健康は世界的に重要なテーマです。しかし、日本では、性について知る・自分の性を守るという意識が十分に広がっているとはまだ言えない状況です。

「恋愛や好きな人との性行為を楽しむためには、性の健康・性の安全について知っておくことは大切です」と話すのは、アメリカ在住の乳腺放射線科医・医学博士のフォックス岡本聡子先生。日本とアメリカの文化の違いを知るフォックス岡本先生に、性の健康について、セックスポジティブの大切さ、安全に楽しむために必要なことを教えていただきます。

性の健康を知ることは自分を守ること

性の健康(セクシャルウェルネス)と聞くと、快楽・官能的な印象を抱く人もいるかもしれませんが、実際には、“人間の性のあり方 (セクシュアリティ) に関連した身体的、感情的、精神的、社会的ウェルビーイングの状態のことである”と、WHO(世界保健機関)が定義しています。つまり、安全・権利・健康にまつわる事柄です。

「日本では、性の健康をはじめ、性のあり方は自然なものでセックスの喜びや快楽も含めて自分を知るという意味を持つセックスポジティブに関しても、まだまだ話せない雰囲気が残っているように感じています。性について学ぶことは、パートナーのためでもありますが、なにより自分自身を守ることにつながります」(フォックス岡本聡子先生・以下同)

境界線を認識し、言語化する

境界線を認識し、言語化する

「アメリカでは、幼少期から自分の心と身体は自分のものである、NOと言ってもいいことを学んでいきます。だからこそ、境界線(バウンダリー)を言語化でき、相手に伝えることを当たり前のコミュニケーションとして認識することができています。

一方、日本では、空気を読む、我慢が美徳であるという価値観が存在しているように、自分の心と身体の境界線を言語化する機会がほとんどないように思います。それでは主体性は育まれにくいです。

自分の意思を明確にすることは、相手への拒絶ではなく尊重。相手といい関係を築くためにも境界線を認識し、きちんと伝えることは必要となります」

社会的価値観は恋愛にも影響する

社会的価値観は恋愛にも影響する

「性の健康を考えるうえでは、恋愛に関する価値観も大事です。例えば、アメリカには恋人関係になる前に、お互いを知る時間をしっかり設けます。いわゆるデーティング文化で、複数回デートを重ねて、お互いの人柄・価値観・境界線を確認したうえで、恋人関係に発展するかを決めます。デーティング期間に性行為をするかどうかはあくまで本人の自己決定として尊重されますし、同時進行で何人とデーティングしても問題はありません。

一方、日本ではこうしたデーティング文化は一般的ではありません。気になる人ができた場合、その1名だけとデートをして、なかには1回のデートで恋人になるケースもあります。そのスピード感では、お互いへの理解は浅いまま。十分なコミュニケーションが取れていないなかで恋人同士になってしまっている状況です。また、【正式に付き合う前に性行為はNG】という暗黙のルールがあり、同時に【付き合ったら性行為はするもの】という認識を持つ人もいるでしょう。

決してデーティングを推奨しているわけではないことを前提に、デーティング文化は自分で選ぶ、相手も選ぶという主体性を育てる側面もあります。恋人関係になる前に相手を知る、自分のことを知ってもらうための時間をしっかりと作るためであり、大切なプロセスだと思います」

安全に楽しむことが大前提

さらに、フォックス岡本聡子先生は、「日本社会には幼さや若さをかわいいとする独特の文化があります。この価値観が結果として性の健康や性の安全を損なう一因になっているように感じています」と指摘します。

「日本のアイドルやアニメはすばらしいカルチャーである一方で、“幼さ、あどけなさ、若さ”が魅力として強調されがちです。それが性的魅力でもあると結び付けられる可能性は大いにあります。こうした価値観が広がっていくことは、性の健康・性の安全に関するリテラシーの低下を招きかねません。

性行為は安心して楽しめることが大前提です。そのためには、同意/コミュニケーション/性感染症予防の知識/避妊についての知識/緊急避避妊薬の正しい理解/無理しない・させないといった心身の安全などについて、しっかり理解しておくことが必要です」

アップデートを意識しよう

アップデートを意識しよう

「セクシャルウェルネスやセックスポジティブという言葉は、性にオープンになろうと解釈されてることがありますが、自分の意思、心と身体を尊重することです。だからこそ、自分の境界線を知ること/相手の境界線を尊重すること/安全を確保するための知識を持つことは必要不可欠です。

さらに、教育や文化、意識のアップデートも大切です。恋愛や性行為を安心して楽しむためには、安全という土台作りから始めてみてください」

●教育のアップデート
NOと言っていい
同意・性の安全を学ぶ
自分の身体の境界線を知り、伝える

●文化のアップデート
性をウェルビーイングの一部として扱う
成熟、主体性、自分で決める力を尊重する

●意識のアップデート
性の話を避けない
一方的に決めない
相手の境界線を尊重する

執筆/木川誠子

No.00205
2026年2月20日リリース

フォックス岡本聡子先生

フォックス岡本聡子先生乳腺放射線科医・医学博士

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日本で臨床・研究を経験した後、スタンフォード大学での研究留学を経験。現在は”病院では行き届かないサポートを新しいカタチで”をモットーに、画像診断のほか、専門の乳がんや自身が悩んだ流産や妊孕性の情報発信を行なっている。カリフォルニアで暮らす。
https://satokofox.com/