『フェムテックジャパンカレッジ』のオリジナルコンテンツとして、対談企画『トークルーム』が始まります。『フェムテックジャパンカレッジ』が聞き手となり、フェムテック領域で活躍する方々との対話をお届けいたします。
今回は、第1回目のゲストである、テレビ東京プロデューサー 工藤里紗さんとの対談の後編をお届けします。工藤さんが番組でフェムテックを扱ううえで大切にしていることはどんなことなのでしょうか。
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生理は全世界の共通項!
FJC:番組を制作するうえで、「なんで生理の話題を放送するんだ」と言われることもあるということでしたが、まだまだそうなんだ……と思う一方で、大変な状況下でも生理のことを気にするということは、それだけ生活に溶け込んでいるということですよね。
工藤さん:そうなんです。『生理CAMP2020』(2020年放送)の番組内で紹介した、映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018年/ソニー・ピクチャーズ)は、インドで起きた実話が基になっています。インドの小さな村で生活を送る主人公は、貧しくて生理用ナプキンが買えず、不衛生な布で処置をしている妻を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつきます。そして、さまざまな波乱万丈の末、ついに低コストで生理用ナプキンを大量生産できる方法を開発し、雇用も生み出すという、起業家ストーリーです。同時に『生理小屋』など生理のタブーや生理の貧困についても描かれています。
出産はすべての女性が経験するわけではないですが、生理は健康体であれば経験すること。でも、生理痛などの症状の有無、生理による快不快は人それぞれですが、「365日、毎日生理だったらいいのにな~」という人には出会ったことがありません。だから、その映画を観た時、信仰心や文化、歴史の違いがあっても、女性にとっての生理は共通項なんだと。生理は自分ひとりの悩みではなくて、世界がつながっている、みんなへの応援のように感じました。
今も生理については関心度が高いと思っているので、いつかは世界の生理について取材をしたり、世界の女性たちと座談会をしたりしたいと考えています。
(キャプション)書籍『生理CAMP みんなで聞く・知る・語る!』(集英社)
FJC:日本に暮らしていると、人種やカルチャーなどの違いを感じる機会があまりないことを考えると、違いを知ることは大切ですよね。ある意味、教育にもつながるといいますか……。
工藤:はい、性教育は大事ですよね。ただ、妊娠でも、生理でも、何か共通項がないとなかなか話せなかったりすると思うんです。映画を観るでもいいですし、専門家から話を聞くでもいいと思います。そして、映画を観た後、話を聞いた後、どんなふうに感じたかということを、アウトプットをしてもいいですよね。
フェムテックという言葉は間口が広くなるいい言葉だけど……
FJC:はい、そう思います。教育とまではいきませんが、情報や知識を伝えていくという意味では、メディアの役割は大切だと考えています。
フェムテックという言葉が出てきたことは伝えやすくなりましたし、いい側面はもちろんあるのですが、ただのトレンドで終わってしまうかもしれない、本質的なことが伝わっていないかもしれない、という危険性もあると感じています。
(C)テレビ東京
工藤さん:まさにフェムテックという言葉は、便利な言葉ですよね。話題に入りにくい男性や新規参入を考えている企業など、フェムテックという言葉をあることで行動しやすくなっていると思います。「これが悩みだったんだ」と気が付くことが第一歩だということを考えると、間口が広くなるという意味ではすごく良い言葉。
女性であることで生じてしまう事柄に目が向くことが一番大事なことだからこそ、『テレ東フェムテック委員会』という番組を立ち上げました。関心を持ちやすい、いろんな人が入ってきやすいという意味で、分かりやすく、あえて“フェムテック委員会”と表看板に出しています。
また、『テレ東フェムテック委員会』という番組を作っていることで会社の姿勢も伝わると思いますし、番組名として口に出すことで外とのつながりが生まれて、伝えたいことや情報を必要としているところへつながっていく……とも考えています。
その一方で、トレンドにもなっているがゆえに、情報が有象無象状態。抱えている悩みや不調によっては、フェムテックという表現ではないほうがアクセスしやすい場合もあると思います。特に日本におけるフェムテックは、例えば、吸水ショーツなどの生理用品は快適さを求めるほうが向いているし、強いとも思います。それは、海外とは保険制度が異なるからだと考えています。
制度設計にしても、コスト面から見ても、医療機関に気軽にアクセスできない国でのフェムテックは、セルフメディケーションが発達していると思います。でも、日本の場合は、気軽に病院に行けて、適切な処置や必要な検査をしてもらえます。その日本で、病院の代わりにセルフメディケーション系のアイテムやサービスが多くなっていることは、私も危惧しています。
親も、子どもも、メディア制作者もリテラシーが大切!
FJC:まさにそう思います。フェムテックのアイテムやサービスを取り入れているからOKではない。例えば、フェムケアをしていることで自己肯定や心地いい、過ごしやすい生活につながることもあると思うので、それはいいことだと思いますが、だからといって、まったく婦人科検診に行かない、病気の疑いがあるのに病院に行かないというのは話が変わってきますよね。
フェムテックのアイテムやサービスを用いてのセルフケアと医療機関への受診を同じ土俵に乗せてはいけない、という理解を進めていくことが大切だと感じているのですが、番組で取り扱ううえではどこにラインを設けていますか?
工藤さん:生死や病気に関わることとライフプランに影響する可能性があることに関しては、「病院へ!」ということです。また、必ず専門医にご出演いただいています。
先日、あるフェムテックの展示会でスマホをかざすと乳がんが分かるというようなアプリサービスがあり、「ひえ~!」と思いました。「スマホかざしてないで、乳がん検診行って!!!」と。また、〇〇年齢が手軽に分かるキットみたいなのも話題ですよね。手軽だし、試してみたい気持ちも分かりますが、それで「実年齢は42歳だけど、〇〇年齢は22歳だからまだまだ妊娠できるはず」と安心して、その後、不妊に悩むという状況になると大変です。ライフプランどころか人生が変わってしまいます。
FJC:日本におけるフェムテック産業は、発展している最中だからこそ新規参入も多く、アイテムやサービスがどんどん誕生しています。だからこそ、ひとりひとりの見極める力というか、リテラシーが本当に大切だと感じています。
工藤さん:本当にそうだと思います。消費者側も、制作側もリテラシーは大事。
FJC:取材を通して、さまざまな産婦人科の医師にお話を伺っている中で、母娘で意見が分かれることがあるという話をよく聞きます。
例えば、ピルの場合、娘は月経コントロールのために取り入れたいけど、母親のほうはピル=避妊のためという情報からアップデートされていなくて「ダメ!」と禁止すると……。
工藤さん:私も親なので感じていますが、親世代、大人世代のリテラシーも大切ですよね。
フェムテックの広がりによってアイテムやサービスが増えることは、選択肢が増えるということだと思っています。これから日本独自のフェムテックも増えてくると思いますので、しっかり見極めながら、必要なものを取り入れていく。そして、生死や病気に関わること、ライフプランに影響することは、きちんと医療機関に行って検査や検診を受けたほうがいいと思います。
FJC:はい、本当にそうですね。『フェムテックジャパンカレッジ』としても、きちんとした情報を発信できるように努めます。本日はいろいろなお話をありがとうございました!
(プロフィール)
工藤里紗さん
株式会社 テレビ東京 制作局 クリエイティブ制作チーム プロデューサー。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2003年、テレビ東京に入社後、『生理CAMP』『極嬢ヂカラ』『シナぷしゅ』『種から植えるTV』など、幅広いジャンルのヒット番組を手がける。新番組『テレ東フェムテック委員会』も話題!
『テレ東フェムテック委員会』
女性の性と健康に寄り添った情報や生理や避妊、妊活、産後ケア、更年期などのトークをお届け。『テレ東 フェムテック委員会 YouTube』で検索!『生理CAMP』もテレビ東京公式YouTubeで公開中です。
執筆/木川誠子
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