『フェムテックジャパンカレッジ』が聞き手となり、フェムテック領域で活躍する方々との対話をお届けする、対談企画『トークルーム』。
今回は、「株式会社TENGA」で国内マーケティング部 部長を担う西野芙美さんの後編をお届けします。
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「TENGA」は多くの人に情報が届けられるメディア
FJC:御社の女性社員は「iroha」が大好きということでしたが、そもそも西野さんはなぜ「TENGA」に入社しようと思ったのですか?
西野さん:私も実はもともと出版社の宣伝部に在籍していて、新聞広告を作っていました。本がすごく好きなので、出版業界から出る気はなかったのですが、営業部に異動になった時に、非常に業態が古いこともあって、「若くてかわいいから、書店担当者にたくさんちやほやされておいで」と言われるなど、当たり前のようにセクハラがありました。
発言した本人に悪気はないし、営業の仕事自体はすごく楽しかったんですけど、私の頑張りとは関係なく、見た目や年齢でジャッジされてしまう世界なんだと強く感じました。昔はOKな風潮があったけど、今だったら即セクハラになりますよね。ただ、それはセクハラ発言をしている人が「今の時代、これはアウトだよね」と言うことと、自分自身で「これは人の尊厳を傷つけるからアウトなんだ」と肌で感じるのとでは、体験の質がまったく違うと思います。
こうした“肌で感じる”体験をしてもらうには、性が人の尊厳にかかわることだという、知識として知るだけではなく、ベッドの中から変えていかないといけないのではないかと思った時に、「TENGA」の求人広告を見て「これだ!」と合致しました。
「TENGA」はいろいろな側面を持った会社であり、ブランド。そして、幅広い人とコミュニケーションが取れるアイテムだと思います。例えば、忘年会の景品に「TENGA」があることで笑いが起きますし、その一方で会社としては真面目な取り組みもしています。例えば、障害と性に関する研究レポートなどは、真面目な側面として皆さんに伝わります。
そういう意味で、すごく優秀なメディアだと思い、「TENGA」を媒介していろんな人に情報を届けられると感じたので入社しました。
FJC:外からはさまざまな印象を持たれるジャンルかもしれませんが、伝えていく、届けていくというベースは同じですね。きっとコミュニケーションも社内のほうがスムーズに行えますよね。
西野さん:そうですね(笑)。だから、もしかしたら社外の人が聞くと眉をひそめられる内容があるかもしれないので、社内でのコミュニケーションに慣れすぎるとタブーやNGが分からなくなってきます。
FJC:御社からするとビジネス会話ではありますが、感じ方は人それぞれなので難しいところはありますよね。
西野さん:はい。人を見た目や年齢でジャッジする発言があると、自分にその意図はないのに、なぜか女性同士が対立させられてしまうみたいな、そういう圧力が生じてしまうと感じています。
例えば、「若くてかわいいね~」と言われると、年齢や容姿の“あるべき像”が勝手に作られて、その枠の中に入らない人が排除されてしまうというか。マウンティングという言葉もありますが、そういう社会の圧力を内面化している女性はすごく多いと思っているので、とにかくそういう女性をひとりでも減らしていきたいという気持ちは強くあります。
「iroha」は女性がナチュラルに愛用できる
FJC:女性がどう生きていくのか、自分がどう生きていくのかというところをみんなが考えるようになれば、他の人のことはそんなに気にならなくなると思います。だからといって、自己肯定感を上げていこう、ハッピーに暮らしていこう、という流れも違う気がしているので、そのバランス感覚がすごく難しいと感じています。
西野さん:本当にそうですよね。「iroha」もそのバランス感覚は無意識に意識しているところだと思います。
例えば、海外のプレジャートイはビタミンカラーでパキッとした印象のタイプがありますが、それはある種、自立した女性こそ美しいという打ち出しをしている印象でもあるのかなと。それはそれで息苦しいこともあると思います。
すべての女性が経済的に独立して、独立独歩で自分のプレジャーを開拓していくというテンションではないと考えた時に、「iroha」はすべての女性に開かれたプロダクトだという、大前提として安心感があると思っています。
色合いを見ても、かわいらしいものもあれば、すっきりしたタイプもありますし、ひと言で言うと“平熱な商品”。さまざまな女性がナチュラルに愛用できるという視点は、すごく気をつけています。でもそれは、マインドのバランス感というか、あまり肩ひじを張らず、かといって誰かに依存するわけではない、そういうあり方というのを製品として体現していると感じます。
だからこそ、10周年発表会の時に水原希子さんが、「初めてirohaを見た時に、女性のためのアイテムだって思ったんです」と、アイテムを見ただけで感じ取ってくれたのがすごくうれしかったです。
「iroha」は日本生まれ日本育ちが強み
FJC:確かに平熱という言葉はしっくりくる感じがします。平熱といっても具体的な温度は人によって多少の違いはありますが、平熱が心地よく過ごせるという意味でも。
西野さん:はい。「iroha STORE 大丸梅田店」に来てくださるお客様の中には、漠然と悩みがあって、でもどうすればいいのかが分からないという方がいます。そういう時は、スタッフに相談しながら「自分の課題感はここにある」「これにトキメクからこれにしよう」と。自分自身を俯瞰して望むものを選んでいくという行為は、それだけで自己肯定感が上がることにつながっていると思うんです。「私はこんなにプレジャーを感じられるんだ」「楽しめるんだ」と思うことも、自己肯定感につながると思います。
FJC:「iroha」は、日本という国で生まれて育っているブランドなので、日本女性に寄り添えるというのは、無意識の中の意識のようにも思えますね。
西野さん:そうかもしれないです。弊社の場合、新製品のテストは社内の女性スタッフで行っています。同じ会社に勤める女性スタッフでも、性に対しての習熟度や、どの程度性的欲求があって、どういう刺激を好むかなどは本当にバラバラ。だからこそ、ひとりひとりが使って真剣にレビューをしているので、ある意味、日本女性の縮図というか、その中央値を意識して作れているのかなと思います。
FJC:本気で向き合って、本気で取り組んでいるというのは、先日の10周年発表会でも感じられました。だからこそ、日本を代表するセクシャルウェルネスブランドという認識を持っていたのですが、同じく10周年発表会の時に「これからはフェムケアブランドとして……」という話があり、少し意外だったというか、その真意がとても気になりました。
西野さん:プレジャーアイテムのブランドであることは間違いなくて、我々も核になる存在はプレジャーアイテムだと思っているんですけど、「iroha STORE」でいろんなお話を聞き、「iroha」を購入してくださった方からのお話を伺うと、プレジャー以外の困りごとがあることがわかりました。
だからこそ、「ここを解決できたら、女性はもっと楽しく暮らせるのではないだろうか」と思うことが増えてきました。その想いを持って、プレジャーアイテムだけではなくフェムケアブランドとして、女性の各ライフステージに存在する困りごとを解決したり、楽しみを提供できたりする製品を出していきたいと考えています。
FJC:これまでがプレジャー領域だけだったとしたら、これからは、女性のライフスタイルを網羅した形で製品展開をしていくということですね。
西野さん:はい。プレジャー以外の部分でも女性に寄り添う商品を展開していきたいです。
FJC:10周年を迎えたことはひとつの区切りでもあったかと思います。これから先を見据えた時、大きな野望も含めて、どこを目指していますか?
西野さん:最終的には世界中の女性に価値を提供したいという想いはあります。ただ、今は国内に目を向けています。
「iroha」は、これまでアダルトグッズの中の優秀なアイテムという存在だったのが、その枠組みが徐々になくなっていき、女性をサポートするアイテムの中で特にプレジャーをカバーするブランドであると変化していきました。そこからさらに、さまざまないろんな領域をカバーができる一般のアイテムという存在であると、現在、そういうステージにいることをお伝えしたのが10周年発表会であり、水原希子さんのアンバサダー就任だったと考えています。
その一歩を踏み出せたので、まずは日本の女性にプレジャーはもちろん、プレジャー以外の領域でも何かしらの価値を提供できるブランドとして製品を作っていくことを重要視しています。
重要だからこそ、教育的な側面も担っていきたい
FJC:水原さんとのコラボ製品も進めているということだったので、ますます楽しみだと感じている一方で、一歩を踏み出すことをためらっている人もまだまだ多い印象もあります。直近だとどのあたりが課題になりますか?
西野さん:やはり販路だと思います。「iroha」は7~8割近くがオンラインでの購入です。オンラインでもこれまでには考えられなかったところでの取り扱いが増え、販路は広がっているのですが、リアルショップ、例えば、ドラッグストアなどはまだまだ。デリケートゾーンケアブランド「iroha INTIMATE CARE」のほうは、ドラッグストアなどでも取り扱っていただいているのですが、プレジャートイの「iroha」はタッチポイントを作りにくいと思っているので、その部分でもっとできることはないかと考えています。
また、弊社では、『セイシル』という10代向け性教育サイトの運営を行っています。『セイシル』は性をフラットに捉え、身近な存在として知識を身に付けてもらおうというものです。
現状、学校での性教育を網羅するのは難しいので、家庭での教育も必要になると考えています。でも家庭は、ある意味閉ざされた空間なので、例えば、親の意向で情報が制限されることもあると思います。そうなると、子どもが自ら性を肯定する機会が少なくなると思いますので、学校と家庭以外の第三者として、いいバランス感で『セイシル』が存在できるのではないかなと、私個人としてはそう思っているところがあります。
FJC:とても理解できます。ひと昔前のお見合いを仲介をしてくれるような、現代ではお節介と言われるかもしれないけど、そういうことをしてくれる存在が本当に重要なんだろうと感じています。
西野さん:はい。もしかしたらプロダクト以外のサービスや仕組みになるかもしれないですけど、「iroha」がそういう役割を担っていきたいと思っています。
(プロフィール)
西野芙美さん
株式会社TENGAマーケティング本部 国内マーケティング部 部長。早稲田大学文化構想学部卒業後、人材紹介会社、出版社での勤務を経て、2017年に「株式会社TENGA」に入社。「iroha」をはじめ、TENGA社が擁するブランドのマーケティング・ブランドコミュニケーションを統括している。
執筆/木川誠子
No.00039