ウェルネス・疾患ケア

リプロダクティブヘルス・ライツを知っておこう

女性の健康課題についての知識や情報が広がりを見せている中で、リプロダクティブヘルス・ライツという言葉も聞かれるようになりました。性別にかかわらず、すべての人が知っておきたい事柄です。

そこで、現在アメリカで暮らす、乳腺放射線科医・医学博士 フォックス岡本聡子先生にお話を伺い、リプロダクティブヘルス・ライツの基本情報を教えていただきました。日本とアメリカでの違いも含めて、ひとりひとりがしっかりと考えることの大切さもお話しいただきました。

性と生殖に関する健康と権利

性と生殖に関する健康と権利

リプロダクティブヘルス・ライツは、日本語では【性と生殖に関する健康と権利】。すべての人が自分自身の性と生殖に関する決定を自由に行える権利を保障する概念を指します。英語では、Sexual and Reproductive Health and Rightsと表現されることが多く、その頭文字をとってSRHRと表記されることも。

この概念は、国連(国際連合)やWHO(世界保健機関)などが提唱し、すべての人が性と生殖に関する権利と健康を享受することができることを目指しています。また、性別や社会的な状況にかかわらず、平等な健康と権利を確保するためにも重要とされています。

●リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)

安全に性と生殖に関する活動を行い、健康な生活を維持できることを指します。性教育、避妊、妊娠・出産に関する適切な医療サービス、性感染症の予防と治療などが含まれます。

●リプロダクティブライツ(性と生殖に関する権利)

生殖に関する決定を、他者からの干渉を受けずに行える権利のことです。個人が自分の意思で妊娠や出産をするかどうか、またそのタイミングや間隔を決める権利。そして、性暴力や強制的な妊娠・中絶、または不妊手術などの強制的な医療行為に対する反対の権利も含まれます。

リプロダクティブヘルス・ライツの代表的な具体例

リプロダクティブヘルス・ライツの代表的な具体例

●避妊のアクセス
「子どもを産むか、産まないかを選ぶ自由もリプロダクティブヘルス・ライツのひとつ。そして、妊娠に紐づいて考える必要がある避妊へのアクセスもそうです。

自分が望む時期に妊娠を計画し、家族計画を行うためには、避妊の手段を自由に選び、アクセスできることが保証されている必要があります」(フォックス岡本聡子先生・以下同)

●正確な性教育
「学校での包括的な性教育や避妊方法、性感染症の予防に関する知識を得ることも与えられている権利です。性や生殖に関しての正確な情報と教育によって、自分の健康や将来の計画にまつわる選択が可能になっていきます」

●性感染症の予防と治療
「すべての人が性感染症の予防、診断、治療を受ける権利があります。そのためには、医療サービスにアクセスできるように環境を整えておくことが大切です」

●安全な妊娠と出産
「女性が安全に妊娠と出産ができるための、適切な医療やサポートを受けられることも重要です。妊産婦検診や分娩の際の適切な医療をはじめ、産後ケアも含まれます」

●中絶の権利
「さまざまな事情で望まない妊娠に対して、中絶を選択できること。そして、医療的に適切な形で行われることも大切な権利のひとつです」

国によっても考え方は異なる

国によっても考え方は異なる

「このほかにも、不妊治療へのアクセスや性暴力からの保護、ジェンダー平等の推進などもあり、リプロダクティブヘルス・ライツの取り組みはとても幅広いです。そして、社会的、文化的背景に応じて権利の内容やアクセスの状況は異なります。

例えば、現在私が暮らすアメリカでは、中絶に対する法律が州ごとで異なります。日本の刑法にも堕胎罪があり、原則禁止とされていますが、母体保護法という法律によって定められた適応条件があります。具体的には、妊娠22週未満の場合は、母体にかかるリスクが低く、中絶手術が認められています。

一方、2024年9月現在のアメリカでは、テキサス州、アラバマ州、ルイジアナ州、ミズーリ州、アーカンソー州、ケンタッキー州などが、ほぼ全面的に中絶を禁止しています。レイプによる妊娠であっても、母体の健康が危険な状態であっても許可されないケースがあるほどです。これは、アメリカ国内でのリプロダクティブヘルス・ライツが守られていないことを意味していると思います」

自分自身の健康や権利について考えよう

「リプロダクティブヘルス・ライツの事柄は、アメリカではたびたび政治に利用されてしまう実情があります。どの国で暮らしていても、私の身体のことは私が決める。妊娠や中絶に関しては『今の私には関係がないから……』と思ってしまうかもしれませんが、あらかじめきちんと知っておくことは大切です。また、パートナーとの性行為は、安心した環境下で行われているか、お互いが安全だと思える避妊方法を取り入れられているか。さらには、ジェンダー平等など、私たちの日常はリプロダクティブヘルス・ライツに関係しています。

だからこそ、日頃から自分自身のリプロダクティブヘルス・ライツを考えることは重要です。そして、もし機会があれば、家族や友達、パートナーとも意見を交換してみてください」

執筆/木川誠子

No.00143

フォックス岡本聡子先生

フォックス岡本聡子先生乳腺放射線科医・医学博士

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日本で臨床・研究を経験した後、スタンフォード大学での研究留学を経験。現在は”病院では行き届かないサポートを新しいカタチで”をモットーに、画像診断のほか、専門の乳がんや自身が悩んだ流産や妊孕性の情報発信を行なっている。カリフォルニアで暮らす。
https://satokofox.com/