日本のフェムテック元年と言われる2020年以降、さまざまなフェムテック・フェムケアアイテムやサービスが誕生。なかでも、デリケートゾーンケアというキーワードに触れる機会は増えていると思います。
「デリケートゾーンを清潔に保ち、乾燥を防ぐことは大切ですが、腟内のセルフケアは基本必要ありません」と話すのは、婦人科と美容を融合させた“フェムキュア”を提案する産婦人科専門医である山村菜実先生。
その理由は、腟には自浄作用が備わっているからです。山村先生に自浄作用の基本的な知識を教えていただきます。
自浄作用は防御システム

「腟に備わっている自浄作用とは、外部から細菌や異物が侵入したり、腟内のバランスが崩れたりした時に、自らで腟内環境を一定に保とうとする働きのことです。腟内をいい状態に保つための防御システムと言えます。
自浄作用はストレスや疲れ、生活習慣の乱れなどの影響を受けてしまいます。自浄作用が弱まっている時は、おりものの量や色、ニオイに変化があります。デリケートゾーンにかゆみや痛み、性行為後に不快感や出血が起こることもありますので、症状がある場合は婦人科の受診をおすすめします」(山村菜実先生・以下同)
自浄作用に必要な3つこと

1.ラクトバチルス乳酸桿菌
「腟内にも腸内同様に、善玉菌・悪玉菌・日和見菌が存在しており、菌のバランスによって健康が保たれています。腟内にさまざまな菌が存在している状態を、腟内フローラと言います。
さまざまな菌が存在する中でも、特にラクトバチルス乳酸桿菌が重要とされています。ラクトバチルス乳酸桿菌は、腟内をpH3.8~4.5の酸性に保つ、雑菌や病原菌の増殖を抑制する、グリコーゲン(体内のエネルギー源)を分解して乳酸を作るなどの役割を担っています」
2.エストロゲン(卵胞ホルモン)
「女性ホルモンであるエストロゲンも、自浄作用を支える存在です。エストロゲンが十分に分泌される思春期から性成熟期は、腟壁が厚くなり、グリコーゲンが豊富。ラクトバチルス乳酸桿菌が活発で、腟内を酸性に維持しやすいことから感染予防につながっています。
ただし、エストロゲンの分泌が減ってしまう更年期以降は、腟壁が薄く、乾燥しやすくなり、グリコーゲンの量も減ってしまいます。そのため、腟内に必要な菌も減少することで酸性が保ちにくくなることでトラブルも増えていきます」
3.おりもの(分泌物)
「腟壁や子宮頸部から分泌されるおりものは、自浄作用によって古い細胞や菌を排出する大切な役割を担っています。その状態に変化が起きた場合は、身体のコンディションや異常のサインを知らせてくれることもあります。
無臭、もしくはほのかに酸っぱいニオイ、色は透明から乳白色が健康な状態です。緑や茶色が混じっているような色になった、くさいと感じる場合は自浄作用が弱まっているサインになります」
自浄作用を支えるセルフケア法

●デリケートゾーン(外陰部)だけを洗う
「自浄作用がある腟内は、洗わないでください。ですが、デリケートゾーンと呼ばれる外陰部は清潔にすることが大事なので、デリケートゾーンに適したアイテムを用いて、優しく洗いましょう。そして、保湿も忘れずに!」
●規則正しい生活習慣を心掛ける
「ストレスや睡眠不足はホルモンバランスの乱れや免疫力低下につながります。健康のベースである規則正しい生活習慣は自浄作用にも必要不可欠です。
ホルモンバランスや自律神経を整えるという意味でも大切になります」
●通気性のいい下着を身につける
「締め付けのあるタイプや肌に合わない素材の下着を身につけると、デリケートゾーンの状態を悪くする可能性があります。自分が心地いいと感じるシルエット、素材選びを心掛けてください。
また、生理用のナプキンやおりものシートを使用する際は、こまめに取り替えましょう。同じものを長時間身につけていると雑菌が繁殖しやすくなります」
【下着選びもフェムケア!感染症にならないためのショーツ選び】
●自浄作用を弱くする事柄を知る
「生活習慣の乱れや下着選びのほかに、デリケートゾーンの洗いすぎも気をつけましょう。必要な菌まで洗い流す可能性、pHのバランスが崩れる場合も考えられます。また、抗生物質を服用する際は、善玉菌が減少して、カンジダ菌が繁殖しやすくなりますので気をつけましょう。
エストロゲンが減少するという視点では、一時的ではありますが出産後も注意が必要です。そして、更年期もエストロゲンが減少しますので、気になる場合は専門医に相談してみてください」
●定期的に婦人科を受診する
「おりものに変化がある、かゆみがあるなど、気になる症状がある場合はもちろんですが、定期的に婦人科検診に行くことも安心につながります。その際、もし異常がある場合は医師が気付いてくれますし、気になることがある場合はそのタイミングで確認することもできます。
より安心した状態を保つためには、相談しやすい環境作りも大切です」
執筆/木川誠子
No.00195
2025年12月5日リリース