セクシャルウェルネス(性の健康)において、感じる感覚は大切です。では、感じる・感じないとは、具体的にどのような状態なのでしょうか?
「女性が女性であることを楽しめる人生をサポートしたい!」をモットーに、多方面で活躍されている産婦人科専門医 宮本亜希子先生に教えていただきます。
身体で感じる仕組み
「感じるとは、”身体で感じる”と”心で感じる”の大きくこのふたつで考えることができると思います。では、”身体で感じる”とは、身体のどの部分で感じているのかというと、女性の場合はクリトリス(陰核)です。
クリトリスは表に出ている、陰核亀頭(いんかくきとう)と呼ばれる部分のみだと思われがちですが、大部分は体内にあり、陰核脚(いんかくきゃく)、前庭球(ぜんていきゅう)という部分が腟全体を包み込むように存在していいます。そして、クリトリスは感じるために存在している臓器です。男性でいうと陰茎(ペニス)にあたります。
性的興奮や刺激によって血液が充満することで、クリトリスが勃起します。具体的には、充血したような色に変化し、大きくなっていくイメージ。その状態が、身体で感じている=クリトリスで感じているということになります」(宮本亜希子先生・以下同)
【クリトリスは快感を得るための臓器であることを知っていましたか?】
”中”で感じるってどういうこと?
「性行為は腟に挿入して行うため、腟に感じる仕組みがあると思うかもしれませんが、実は、腟口部分にしか、温度覚や触覚を司る体性神経が通っていません。つまり、腟全体でいうと入口から5分の1に当たる部分には体性神経があり、それより奥は鈍くなります。
では、なぜ“中イキ”という言葉があるかといいますと、それもまたクリトリスによって起きていることです。腟の内側からクリトリスの一部である陰核海綿体(いんかくかいめんたい)や前庭球などを刺激することで感じています」
気持ちで感じる仕組み
「性行為において気持ちはとても重要です。身体はクリトリスによって感じていることをお伝えしましたが、その快感が神経伝達によって脳に届くことで気持ちの面でも感じていることがわかります。
女性のオーガズムには、クリトリスで感じるほかに、いわゆる“脳イキ”と呼ばれるものがあります。これはクリトリスが感じることによって骨盤周りの筋肉に収縮が起き、腟や肛門で感知され、それが脳に伝わることで起こるとされています。
オーガズムが起きている時にあると言われる【身体の内側から突然解き放たれるような感覚】は、この骨盤周りの筋肉の収縮が神経への刺激となり、血液の流れを一気に解放し、全身の細胞が活性化されることでもたらされていると考えられています。
この現象にプラスして、雰囲気や気持ちの昂ぶり、相手に対する感情、相手と触れ合うことでオキシトシンが分泌されるなど、さまざまな要素が複雑に絡みあって女性はオーガズムを得ています。気持ちで感じるセックスには、身体的な刺激より気持ちの状態がウェイトを占めていると言えます。
感じるために大切なこと
「日本の場合、性に対する意識や環境、性教育の影響などもあり、性に関して抵抗感がある人も多いと思います。そのため、性差を知らない、性行為の経験はあっても自分の性器を見たり、触ったりする機会がほとんどないまま大人になっているという人も少なくありません。
ですが、パートナーとの性行為で感じるためには、自分が気持ちいいと感じること、場所などを知っておくことは大切です。どこを触れると気持ちいいのか、どのような刺激を受けると心地いいのかなど、自分を知っていないと、パートナーに伝えることもできませんよね。同時に、何をされたら嫌なのか、どんな刺激だと痛いのかなど、嫌なこと・痛いことも知っておくとより安心して性行為ができます。
近年は、フェムケアアイテムが増えてきています。例えば、デリケートゾーンケア用のウォッシュや保湿アイテムを用いてケアをするなど、日常に組み込むことで女性器に意識が向きやすくなり、抵抗感も少しずつ薄れていくと思います。自分の感じる・感じないを知るためのいい入り口です」
感じるがもたらすもの
「性行為を通して感じることは、ドーパミンやエンドルフィンなどの高揚作用・多幸感のあるホルモンだけでなく、癒しホルモンや愛情ホルモンとも呼ばれているオキシトシンを出してくれる作用もあります。ストレス解消にもなりますし、寝る前にすることでいい睡眠を得られるなど、健康面でも嬉しい作用をもたらしてくれます。
セルフプレジャーも含めて、気持ちいいと感じることは、自分の身体と気持ちの状態を知ること。さらには、心身の健康を支えることでもあります。そう考えると自分の感じるポイントを知ることは大切ですよね。自分のペースで探究しながら、セックスを楽しんでくださいね」
執筆/瀬戸ゆずき
No.00167
2025年5月9日リリース