ウェルネス・疾患ケア

【特別企画】女性特有の健康課題による年間経済損失は3.4兆円!経済産業省 担当者にインタビュー

1990年代から健康経営が提唱され始め、日本でも2009年頃から取り組みが活発化しています。その中でも女性特有の健康課題は業務の効率や就業の継続に大きな影響を与えるとして、経済産業省 ヘルスケア産業課から『女性特有の健康課題による経済損失』が公表されました(最新版は2024年3月)。

そこで今回は、6月に開催された『フェムテックジャパン/フェムケアジャパン2024 in TOKYO』で盛況だったセミナー『女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について』に登壇した、経済産業省 ヘルスケア産業課 室紗貴さんにお話を伺いました。

>>>セミナー・アーカイブ動画はこちら(注意:YouTube公式チャンネルにリンクします)
『女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について』

 

健康課題は業務効率や就業継続に影響している

健康課題は業務効率や就業継続に影響

-『女性特有の健康課題による経済損失』を算出する意義・意味はどのように考えていますか?

「ヘルスケア産業課では、労働人口が減少する日本社会において、多様な人材が心身ともに健康な状態で働けるよう、経営者が戦略的に投資を行う健康経営を実施しています。そして、質の高い健康経営を実施していくためには、従業員ひとりひとりの状況を正確に把握し、対応していくことが必要だと考えています。

健康経営にはさまざまな項目がありますが、中でも女性の健康は業務効率や就業継続に大きな影響を与えています。そのため、職場環境を改善することで大きなポジティブインパクトが期待されるものの、男性が多い経営層が十分に理解をするには難しい側面があります。また、なかなか触れにくい話題です。だからこそ、数字で示すことで、女性の健康が職場の課題のひとつであるという認識につながり、健康経営の一環として投資をする判断がしやすくなるという考えから算出しています」

-2019年にも同様の算出が公表されましたが、今回は、男性特有の前立腺がんと更年期症状(※)についても参考算出されていたのが印象的でした。

「健康経営の基本である、従業員ひとりひとりが働きやすい環境にしていくという意味では、性別にかかわらず取り組むべきだと考えます。そのため、男性の健康課題も考える必要があります。

そのことを踏まえ、今回は数字的インパクトが特に大きい、女性の健康課題の中では月経随伴症・更年期症状・婦人科がん。そして、男女双方にかかわる不妊治療と、参考として男性特有からは前立腺がんと更年期症状のカテゴリーで算出を行いました」

具体的な算出項目が判断材料の指針なる

判断材料の指針なる

-また、カテゴリーごとに具体的な項目での損失額がわかることも健康経営としての判断材料になりやすいと思いました。

「はい。そうなることを期待して今回は、それぞれのカテゴリーで【労働生産性の損失(欠勤・パフォーマンス低下・離職・休職)】と【追加採用に活動かかる費用】を算出しています。

ただ、雇用するのはめんどうという印象を与えたくはありません。男女ともにそれぞれ特有の健康課題があり、それに伴う経済損失を数字で示すことで、今とこれからを踏まえたうえで健康経営の判断につながるひとつの指針として、活用いただけるのではないかと考えています」

-公的機関が経済損失を算出する取り組みは、日本独自といいますか、世界ではあまり見られないように思います。

「確かに、健康経営視点での取り組みは珍しいかもしれません。国によって公的医療保険の制度など、さまざまな仕組みが異なりますので、女性の健康課題においてもそれぞれの国に適した形での取り組みが広がっているように思います。

例えば、アメリカでは、バイデン大統領が女性の健康に関する政府調査を拡大する大統領令に署名し、女性の健康研究に120億ドルを拠出することを表明したとニュースになりました。また、イギリスでは更年期に関する対策本部を設置。フランスでも子宮内膜症の国家戦略が発表されるなど、世界でもさまざまな取り組みがなされています。その中で日本でも、『女性の健康ナショナルセンター』が設置される動きもあり、経済産業省では健康経営の視点で取り組んでいます」

より働きやすい職場作りのためのバックデータ

より働きやすい職場作りのためのバックデータ

-『女性特有の健康課題による経済損失』の情報が、各企業の健康課題の取り組みの後押しとなり、職場環境がよりよい形に変容していくことにどのような期待をしていますか?

「もっと大きな視点ではさまざまなことにつながっていくと考えていますが、現時点では、より働きやすい環境を整えていく段階だと捉えています。その際に、『女性特有の健康課題による経済損失』がバックデータとしてあることで、それぞれの項目ごとに損失を減らしていくためには何をする必要があるか、企業内での働きかけがしやすい状況につながっていけばと考えています。

そのためには数字だけではなく、女性の健康に関する科学的な情報を整理することも重要だと考えています。現時点では、医療に比較すると、女性の健康課題を含めヘルスケア領域はエビデンスのあるサービスが社会実装される仕組みが確立されていません。

その現状を踏まえて経済産業省では、数年前からさまざまな医学会と協力しながら、予防・健康づくり領域における指針策定に取り組んでいます。また、各企業の具体的な取り組みについてもリサーチしていき、好事例を集めることで次につなげていきたいと考えています」

 

※男女双方
妊娠(不妊)/出産は、“女性”のみの課題ではなく、“男女双方に関する課題だが、女性に負担がかかりやすい課題” 。特に不妊は男性側の身体にも原因があるケースが一定比率を占める。但し今回経済損失を算出する際には、女性側への身体的負担・就労への影響が大きいことから、女性側の就労への影響を算出

※男性特有更年期障害
おおむね40歳以降に男性ホルモン(テストステロン)の減少により、女性更年期障害と類似した症状を呈するが、病態が複雑で、まだ十分に解明されていない(産婦人科診療診療ガイドライン -婦人科外来編2020、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き)

執筆/木川誠子

No.00137

フェムテックジャパンカレッジ編集部

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