近年では、産後ケアホテルのサービスに注目が集まっていることもあり、産後ケアの大切さ、必要性への意識が高まっています。その一方で、変化した体型を戻そうと、産後直後から筋肉を刺激するトレーニングを実践してしまうというケースもあるようです。
「産後は、心身ともに消耗していますので、筋肉に刺激が大きいトレーニングは禁物です。産後1ヶ月以降、心身の状態が落ち着いてから再開しても遅くはありません」と教えてくれたのは、産婦人科専門医の山村菜実先生。まだまだ知られていない産後に起こる心身の変化や、産後に意識したいことなどを教えていただきます。
産後に起こる代表的な身体の変化
1. 子宮が元に戻ろうとするため収縮する
「妊娠期間中から大きくなった子宮が、産後から元のサイズに戻ろうとします。その過程では、子宮は小さくなったと思ったら大きくなることもあり、その過程で生理痛や陣痛のような痛みを感じることがあります。産後約1ヶ月で、痛みは徐々におさまっていきますので安心してください」
2.傷が修復する痛みが起こることもある
「帝王切開での出産や自然分娩でも会陰が切れることがあり、その場合、傷による痛みが伴います。帝王切開の傷は行動が制限されてしまいますし、会陰の傷は排尿やお風呂に入るたびに染みてしまうため、心身の負担は大きいです。特に会陰の傷は痛いから触りたくないと洗浄を避ける人もいますが、不衛生になると細菌が繁殖しやすくなりますので、清潔さを保つことは心掛けてください。
そして、痛みは我慢をせず、処方された痛み止めを取り入れましょう。母乳からの赤ちゃんへの影響が心配になると思いますが、処方されている薬でしたら問題ありません。痛みを我慢するのはストレスにつながりますので、安心して取り入れてください」
3.不安定な骨盤をベルトで支える
「妊娠中から広がった骨盤は、出産後には自然と戻っていきます。ただし、出産直後は不安定になっていますので、出産翌日から骨盤ベルトをつけてサポートしましょう。
また、必ずしも元に戻るわけではなく、骨盤の状態は体型にも影響がありますので、可能な限り戻すという意味でも骨盤ベルトがサポートになります。ただし、帝王切開の方は骨盤ベルトで傷が痛く感じる場合もあるため、無理をして使用しないようにしてください」
4.母乳の場合は乳腺炎に注意
「乳腺炎は、授乳中に起こる乳腺の腫れや痛み、赤み。中には発熱する場合もありますが、授乳中であれば誰でも起こる症状です。乳頭に傷があると、細菌が乳房内に入り込み感染を引き起こす可能性もありますので、担当医に相談しながら適宜対処していきましょう。
また、出産したら自然と母乳が出てくると思われがちですが、その量には個人差があります。もし不安がある場合は、担当医や助産師をはじめ、『母乳相談外来』がある病院(治療対象が限定されている場合もある)もありますので、抱え込まずに相談してください」
産後はメンタルの状態も注視
「産後は痛みが伴うなど、身体にも負担がかかっていますが、メンタルの状態にも意識を向けてください。その理由は、妊娠中は増えていた女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が、産後は急激に減ってしまうからです。エストロゲンは、髪や肌にツヤやハリを与えてくれるホルモンなので、産後に減少することで抜け毛が増えるなどの影響が出てくるのもそのためです。
また、女性ホルモンの分泌バランスの変動はメンタルにも影響を及ぼしますので、産後に気持ちの変化が大きく現れる可能性も考えられます。その状況の中で頑張りすぎてしまうと、産後うつなどの深刻な状況に陥ることもあります。女性ホルモンのバランスは少しずつ安定してきますので、産後の特に1ヶ月間は可能な限り、頑張りすぎず、休息を心掛けてください」
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自分の時間を作るためにサービスを利用
「出産後は、子どもが最優先になるのは自然なことですが、産後の母親にも十分な休息や息抜きが必要。数時間でも、赤ちゃんと離れてひとりで過ごせる時間を作ることも重要です。特に産後1ヶ月は休むことを優先していただきたいので、家族からサポートが受けられる環境を準備しておくことや、産後に利用できるサービスがあることも知っていてください」
●産後ケア入院
産後の母親の休養と体力回復を目的としているのが、産後ケア入院です。育児の基礎を学ぶサポートでもあるので、ご家族から十分な援助が受けられない状況で、育児に不安がある場合でも利用することができます。
お産をした病院で展開がある場合は直接申し込むことが可能ですし、他院の場合でも条件を満たせば利用が可能です。
●産後ケアホテル
日本でも知られるようになってきた産後ケアホテルは、出産後の母親と赤ちゃんが快適な環境で過ごし、母体の回復や育児のサポートを受けられる施設。専門の医療スタッフが常駐している安心感の中で過ごすことで、体力の回復のほか、育児のストレスや家事の負担の軽減にもつながります。
近年では、自治体が一部費用を負担する制度を導入している場合もあります。現在暮らすエリアにその制度があるのか、事前にリサーチしてみるのもおすすめです。
●各自治体のケアやサポート制度
多くの自治体では、母親の心身の健康維持や育児支援を目的とした制度があります。例えば、家事支援を中心とした産後ヘルパーを派遣する制度や、産後のメンタルヘルスに関する相談窓口など、さまざまな制度が存在します。また、上記の産後ケア入院や産後ケアホテルの活用もサポートしている場合もあります。
母子手帳を持参して、自治体の窓口で申し込むケースが多く、自治体の制度とあって無料や低額で利用が可能な点も魅力的です。自分が必要としている支援を活用することが大切なので、各自治体のサイトや母子保健窓口で確認し、必要に応じて利用しましょう。
父親は積極的に両親学級・父親学級へ
自治体や通院している産婦人科で行われている両親学級は、出産や子育てについて学ぶ場所です。父親学級では、妊婦体験やおしめの替え方、赤ちゃんのお風呂の入れ方など、具体的なことを体験するプログラムが多いです。何をすればいいかわからない状態では育児をすることが難しいので、父親として実践的なことを身につけておくのは大切。
開催日程が決まっていることがほとんどなので、スケジュールを合わせるのが難しいという場合もあるかもしれませんが、可能な限り調整をして積極的に参加することをおすすめします。父親同士のネットワークを作るという意味でも有効です。
【妊娠のため?美容効果はある?女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンの基礎知識】
執筆/木川誠子
No.00145