フェムテックの流れが拡大するとともに、メンタルヘルスにも注目が集まっています。それは、女性ホルモンとメンタルヘルスには親密な関係があるからです。
そもそもメンタルヘルスとは何か。そして、女性ホルモンとの関係性について、産婦人科専門医であり、産業医を務める山村菜実先生に教えていただきます。
メンタルヘルスは心の健康
「メンタルヘルスとは、WHO(世界保健機関)では、“自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに自分が所属するコミュニティに貢献できる健康な状態”と定義されています。
例えば、身体が軽い、エネルギーを感じるなどの感覚と同じように、心が軽い、やる気を感じるなどの気持ちがある場合は、心が健康な状態と言えます」(山村菜実先生・以下同)
メンタルヘルスに起因する代表的な精神疾患
●うつ病
好きなことが楽しめない、イライラすることが多いなど、ネガティブな感情が起きる状態が続き、次第に頭痛や肩凝り、食欲減退、不眠といった身体的な症状が現れてきます。
●パニック障害・不安障害
突然、不安な気持ちが増幅し、コントロールできない状態です。めまいや動機、発汗、呼吸困難などを引き起こし、イライラ、興奮状態、倦怠感を覚えます。
●適応障害
不安感、怒り、神経過敏などの症状のほか、無断欠勤や危険運転、暴言などの行動面に症状が見られることがあります。
●睡眠障害
寝つきが悪い、睡眠時間は確保しているのに寝たりないと感じる、いびきをよくかくなどの症状が続きます。
●依存症
アルコールや特定の食品、特定の行為に依存していることをやめられない状態です。物事への執着心、自分の気持ちや行動をコントロールできなくなるなど、日常生活にも支障が出てきます。
メンタルヘルスの主な要因はストレス過多!
「メンタルヘルスの不調は、大きく外因性と内因性のふたつに分けられます。
外因性とは、生活や職場環境など、外部から与えられるストレスであり、内因性は自分自身が感じる不安やストレスを指します。これらのストレスが多くなりすぎること、複合的になることで、生理機能やホルモン分泌を司る自律神経が乱れてしまい、不調の症状が現れてきます。
自律神経は、脳の中心部あたりに位置する視床下部によって機能しています」
視床下部の役割
たくさんの神経核から構成されており、体温の調整、ストレスへの対応、摂食行動、睡眠などの生理機能を管理し、自律神経の中枢も担っています。
脳下垂体の役割
小指ほどの小さな器官ではありますが、さまざまなホルモン分泌を行っています。そのため、ホルモンの司令塔と呼ばれているほど。
「自律神経は女性ホルモンとも関係があります。それは、視床下部からエストロゲンの分泌を依頼し、脳下垂体がその指令をキャッチ。その指令が卵巣に伝わることで分泌されるからです。そして、指令通りに分泌が行われたか、卵巣の状態は視床下部にフィードバックされるようになっています。
この一連の流れが正常に行われていることで健康な状態が保たれますが、ストレスフルな状態になると、視床下部も脳下垂体も正常に機能せず、自律神経が乱れていきます。さらには、女性ホルモンの分泌も正常に行われない状態になり、メンタルヘルスの不調につながります」
メンタルヘルスの状態は客観性が重要
メンタルヘルスケアに関しては、2015年12月から、労働者数50名以上の事業場において、年に1回のストレスチェックを実施することが事業者の義務となり、50名未満の場合は努力義務とされています。
「メンタルヘルスの状態は自分ではわかりにくいところがあるため客観的に判断できるように、産業医は厚生労働省が推奨しているストレスチェックリストを用いながら健康管理に役立てています。
ストレスチェックリストには、その方の仕事の状況、その方自身のメンタル状態、その方の人間関係に関することについての項目に関して、例えば、満足・まあ満足・やや不満足・不満といったように、4段階で判断していただきます。そうすることでストレス度合いが数値として現れるので、現状を把握するためには大切なことです」
ひとりで抱え込まず、相談しよう
「心と身体はつながっていますので、たとえ身体が健康であっても、心が健康ではなかった場合、活力を持って仕事には取り組めなくなりますし、人生そのものを楽しむことが難しくなります。そして、次第に身体にも不調が現れてきます。身体の健康と同じように心の健康にも健康習慣は必要です。
もし気になることがある場合は、ひとりで考えたり、抱え込んだりはせず、なるべく早いタイミングで身近にいる信頼できる人や専門機関に相談しましょう。また、産業医との面談内容は直属の上司をはじめ、社内に共有されることはなく、個人情報は守られますので、安心してお話してください」
執筆/木川誠子
No.00092
2024年1月23日リリース