『フェムテックジャパンカレッジ』が聞き手となり、フェムテック領域で活躍する方々との対話をお届けする、対談企画『トークルーム』。
北原みのりさんとのトーク後編は、フェムテック領域で今現在感じていること、これから目指していきたいことなどをお伺いしました。
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女性への理解がまだまだ足りていない
FJC:当事者だから続けられているというお話がありましたが、 1996年から続けていて、社会の流れというか、雰囲気というか……北原さんが大きく変わったと感じた時はありますか?
北原さん:確か2016年だったと思うのですが、日本で初めて月経カップが医療機器になったタイミングです。「すごい、やった!」と思いました。
弊社では設立当初から月経カップを販売しているのですが、当時は生理用品として販売することはできなかったので、細々とアダルトグッズの雑貨として販売するしかありませんでした。ですので、医療機器として分類された時は本当に嬉しかったです。
FJC:では、女性の意識が変化したと感じた瞬間はありますか?
北原さん:そこは難しいですよね。私がすごく感じているのは、女性は我慢しているということです。だから、例えば、吸水ショーツがあることをお話しすると、目を輝かせながら「こういうアイテム待っていた!」と言う方が多いです。それは、プレジャーグッズにも同じことが言えると思うんですけど、女性の身体や気持ちについてを率直に話せる場所があれば、みんな話しますよね。だから、女性の意識が変わったというよりは、常に話したいし、変わりたいと思っているということだと思います。本当は、女性はそのままですごいと思います。あとはきっかけがあるかないか。
むしろ、男性が変わらな過ぎて……。男性の女性への理解が全然足りていないと思います。
知識を得て、語っていくことが大事
FJC:『フェムテックジャパン/フェムケアジャパン』というイベントを開催しているのですが、来場者からは「会場に男性がいすぎて嫌だ」という声があります。
北原さん:逆を考えればわかりやすいと思います。例えば、前立腺がんのことを女性ばかりで話していたら変ですよね。フェムテックに男性が関わることは大事だとは思いますけど、関わり方は考えるべき。
自分事として語れる、人の話を聞くところからフェムテックというのは作られてきています。男性は女性の身体のことを想像するしかないと思うんです。その想像のためには知識が必要だからしっかり学んでほしいと思います。
そして、一概に女性の身体といっても感覚や感じ方はひとりひとり違います。そのあたりは女性たちで語っていくしかないと思います。セクシャルウェルネス(性の健康)に関しては、エロではないところで、男性も女性も語っていかないといけないということだと思います。
FJC:きちんと知識を得ることは、本当に大事ですよね。2020年のフェムテック元年以降、フェムテックは盛り上がっていると思いますが、そのあたりについてはどう感じていますか?
トレンドで終わらせないために地道に続けていく
北原さん:現状、フェムテックが経済用語みたいになっていると思います。経済用語としてすごく盛り上がっているように見えることで、日本でも600億円規模のマーケットと言われているほど大きくはなっていないと思いますし、少し盛りすぎかなと。
現状、フェムテックという言葉のバブル感があるから、トレンドにならないように……ということを私たちがやらないといけないと思っています。だから、大事な知識を地道にやっていくことが大切だと思っています。
FJC:『ラブピースクラブ』のサイトは、商品の背景や知識が記載されているので、安心して選べると感じています。
北原さん:ありがとうございます!私たちはメーカーではないので、消費者と同じ視点で見ることが大事だと思っています。だから、どんな人が作っているのか、どんな素材からできているのかというところはすごく重要だと思っていますし、そういうブランドをセレクトしています。
でも、お客様に伝える時は、「何を我慢していますか?」という話になります。大変ではない人はいないと思いますし、プレジャーグッズにはハードルもあると思うので、それはどんなハードルなのかということを考えながら、どういうふうに届けていくか。
FJC:「何を我慢していますか?」の質問にすぐ答えられる人は多いですか?
北原さん:おっしゃる通りで、我慢していることにすら気が付いていない人は多いです。だから、商品があるとこういうふうに解決できるんだということがわかりやすいので、それはすごくいいと思います。
FJC:そうですよね。問われたらその時に答えが出なくても、そのことについて考えることにはつながりますよね。
女性の身体に必要なのはちょっとしたテクノロジー
北原さん:実は、“テック”という言葉は、当事者の女性たちにはあまり響いていないと思っています。テクノロジーにはさまざまなものがありますよね。ロケットを打ち上げること、繊維を織り込む技術もテクノロジーと言えます。私はフェムテックというよりは、最近はフェムケアという言葉を使うようにしているのですが、それでもテクノロジーはすごく大事。
例えば、月経カップのこんなに柔らかくて薄いシリコンが10年の耐久を持てるようになったのはテクノロジーのおかげ。使い捨ての月経ディスクができたのも、吸水ショーツの繊維の技術もテクノロジーの進化があったからですよね。テクノロジーでこんなに変わるんだという面白さを知ってもらいたいとは思っています。
当事者である女性の声が一番大事
FJC:我々も『フェムテックジャパン』とネーミングしておいてなんですが(笑)、どちらかというとフェムケアが広がるほうが自然ですよね。
北原さん:はい。「これはアプリではないからテックではない」と言われたりするのですが、そういうことではないですよね。フェムケアを支えるテック。
例えば、エレベーターはギリシャ時代からあったと言われていますけど、原理はアナログなテクノロジーですよね。でも、エレベーターがなければ、移動できない人達がいます。このようにちょっとしたテクノロジーが日常を変えます。フェムテックも同じで、本当にちょっとしたテクノロジーや、アナログ的なテクノロジーが女性の生活の質をぐんと上げてくれます。それがフェムテック!
FJC:まさにそうですね。北原さんがこれまで続けてきた中でブレずに持っていることはなんですか?
北原さん:当事者の、女性の声を一番大事にしているところです。それがなくなるとやっている意味もなくなると思っています。
当事者といっても、いろんな教育があって、世代や文化の違いもあるから難しいですけど、「こっちは楽だよ」「楽しいよ」と話し続けている感じです。
FJC:『ラブピースクラブ』ではいろんな国の製品を取り扱っていますが、各国のフェムテック事情を垣間見て、「これは素晴らしい」と印象的だった国はありますか?
北原さん:私は台湾がすごいと思っています。今、本当に革命が起きている感じです。
フェムテックの分野はヨーロッパが進んでいると言われていますし、ヨーロッパのデパートでバイブレーターを見た時は「すごい!」と思いましたが、台湾はすごく小さな国でこれだけの生理用品の種類があるのはすごいことだと思います。
約20年前まではタンポンですら、“使っていいかどうかを医師に確認してみてください”ということが外箱に書いてあったくらい保守的な国なのに、台湾発信の生理用品がこんなにあるのはおもしろいですよね。身体や気候など、日本と近いところがあるので、現在弊社で取り扱っている吸水ショーツや月経カップはすべて台湾から仕入れています。
さらに、5月28日の世界月経衛生デーは政府も含めて国全体で取り組んでいて、世界で唯一月経がテーマの博物館『小紅月經博物館(シャオホンツオユエチンポーウークワン)』が創設されました。
性教育も男女一緒に行われていて、男の子にもきちんと生理教育がされています。だから、生理用品ブランドの『ムーンパンツ』にも男性社員がたくさんいました。
FJC:そうなんですね。北原さんが目指しているところはどこですか?
北原さん:私は以前から幸せなおばあさんが増えるといいな~と思っています。今はまだ年齢を重ねることが楽しいと思えない空気があると思うので、「更年期だからローションを使ってみたらすごくよかった!」とか、そういう話ができるようにしていきたいです。
FJC:先ほども、「40代、50代になった時にどう生きるかというモデルになるような女性があまりいなかった」と話されていましたが、実際に40代、50代を迎えてみてどうですか?
北原さん:今はすごくおもしろいです。だから、本当に女性の力が発揮できる社会になったらいいですよね。
FJC:社会問題とされていることに声をあげるのも、そういった考えからなんですね。
北原さん:やっぱり生きやすくなりたいですよね。経済格差や女性の経済力を考えると、起業し、仕事をすることで何かができたらと思っていますし、女性が自信を持って生きられる社会になるといいですよね。
FJC:はい。本日はいろいろお話いただき、ありがとうございました!
(プロフィール)
北原みのりさん
作家、ラブピースクラブ代表、希望のたね基金理事。1996年から女性のためのプレジャートイショップ『ラブピースクラブ』を始める。著書に『メロスのようには走らない。女の友情論』(KKベストセラーズ)、責任編集した『日本のフェミニズム』(河出書房新社)、佐藤優氏との共著本である『性と国家』(河出書房新社)などがある。
執筆/木川誠子
No.00056