セクシャルウェルネス

性欲についてどう教える?家庭内での性教育はゴールを定めよう

日本の性教育は、先進国の中でも遅れていると言われています。そのため近年は、性教育を学校任せにせず、家庭内でも取り組み傾向にあります。

生殖の仕組みや男女の身体の違いといった生物的なことをはじめ、性欲や性的嗜好、パートナーとの向き合い方についてなども重要な事柄です。では、どのように伝えていくのがいいのでしょうか。「女性が女性であることを楽しめる人生をサポートしたい!」をモットーに、多方面で活躍されている産婦人科専門医 宮本亜希子先生に伺いました。

性欲は生物として子孫を残すためにある

性欲は生物として子孫を残すためにある

「人間に限らず、どの生物にもいえることととして、生物には、ふたつの目的があると考えられています。ひとつめは、生物としての個体(=自分)を生かすこと。もうひとつは、子孫を残すことです。

医学的には定義されていない性欲は、食欲、睡眠欲と並んで三大欲求のひとつとされていますが、子孫を残す目的のためにあると考えられています。一方、食欲と睡眠欲は個体を生かす目的。

つまり、生きるために食事と睡眠は欠かせません。生命の維持に直結している欲求と言えますが、性欲は満たされなくとも命が脅かされることはありません。そのため、性欲は個体の維持ができていることを前提としたうえで存在する欲求であるため、食欲と睡眠欲と比べると二次的な欲求と考えるのが自然です」(宮本亜希子先生・以下同)

性教育にはゴールが必要

性欲は、生物の生理的な欲求として存在しているため、成長するにつれて意識せずとも感じるようになっていきます。自然に起こる事柄に対して、どのように向き合い、どのように伝えていくのがいいのでしょうか。

「家庭内で性教育をする際は、先にあるゴールを決めることが重要です。子どもにどのような意識を持ってほしいのか、知識として持っていてほしいことは何か、まずは親が自分の中で明確にする必要があります。明確なゴールを設けることは、子どもが難しい局面にぶつかったとしても戻ってこられる場所になります。そして、必要以上に難しく考えることがないようになるとも思います。

例えば、私の場合は、【性を健全に楽しめるようにしてあげる】ことをゴールにしています。ここでいう健全とは、同意がある相手と、思いやりを持ち、ルールを守って性行為をする、ということです。これは、被害者あるいは加害者として性犯罪に巻き込まれないということにもつながっていきます」

共通ルールも知っておく

共通ルールも知っておく

「性教育にかんしては、全員が共通して持つべき認識も存在します。それは、【同意ある相手とルールを守って行うこと】です。この共通認識を持っているか、いないかで受け取り方は変わってきます。

一般的には、性欲や性行為はこうあるべきというものがあるように思いますが、個人の性欲や性行為における嗜好に、このような“べき論”を当てはめて考えるのは難しいと思います。

例えば、性欲は男性ホルモンであるテストステロンによって引き起こされるものなので、一般的に男性のほうが強いとされてはいるものの、男女ともに個人差が大きいです。男性だから性欲があってしかたがない、女性で性欲が強いのはおかしいなど、一括りにすることはできません。

性欲や性行為における嗜好も、個人差があって当たり前です。10人いれば10人の楽しみ方があります」

性にまつわる知識で身を守る

社会で生きていく限り、最低限の性にまつわる正しい知識は身につけておくべきだと考えます。それは、誰だって被害者にも、加害者にもなりうる可能性があるからです。自分の身を守るため、そして、誰を傷つけないためにも正しい知識が必要です。

また、現代はテクノロジーの発展によって、子どもであっても簡単に性的なコンテンツにアクセスできてしまう状況があります。

「思春期を迎えると性的なことへの関心がますます強くなっていきますので、それまでに正しい知識を伝えておくことが重要になります。そのためには、普段からのコミュニケーションを意識してください。親子であっても性にまつわる話をすることはセンシティブです。子どもが小さい頃からしっかりコミュニケーションを取っていると、そのハードルが低くなると思います。

親はどんな話でも否定せずに聞いてくれると、子どもがそう認識していることが大事。極端な例え話になりますが、子どもが複数人との性行為に関心を持っているとします。世間に対してオープンにする必要はありませんが、親が頭ごなしに叱ることも避けるべきです。『ルールを守って安全にできるか考えよう』と、親も子どもも考える機会にしていくような、柔軟な思考を持っておくことも必要だと考えます。

性犯罪から身を守るためにも、意図せず加害者になってしまわないためにも、普段からコミュニケーションを取り、性に関することも話せる土台を作っていくことを心掛けていきましょう」

親も知識を深めていく

親も知識を深めていく

「親世代であっても、十分な性教育を受けていないため、わからない、知らないことが多いと思います。子どもが性に関してきちんと向き合えるようになるためには、親も向き合えている必要があります。

子どもは無邪気に驚くようなことを言ってくることもあると思います。そういう時でも否定したり、叱ったりすることなく、冷静に対処するためには、親が正しい知識を身につけることはもちろん、性に関する話をする心の順ができていることも大切です。

親子で性に関する話ができることで、いつでもどこでも誰にでも話していいことではないと、子ども自身が判断できるようになることにつながりますし、自身の性欲や性的嗜好にも向き合えるようになっていきます。

親が学ぶ姿勢を持って、家庭内における性教育のゴールを定めたうえで実施してみてください」

執筆/瀬戸ゆずき

No.00169
2025年5月23日リリース

宮本亜希子先生

一般婦人科、性のお悩み、婦人科美容など女性の美や健康に関わるさまざまな分野に専門知識を持つ。婦人科保険診療のみならず、性教育や子宮頚がんに関する知識の普及、女性の生活の質向上にも力を注ぎ、また腟ヒアルロン酸や婦人科形成手術を行い、美容婦人科指導医としても活躍。“産婦人科医が行うフェムテック医療”として、フェムゾーン美容外来も行っている。AVプロダクション『Mine's』顧問医師・『Medytox』社腟ヒアルロン酸注入認定指導医(世界初)・日本女性医学会更年期指導士・女性医療クリニック『LUNA』『BIANCA CLINIC』『スワンクリニック銀座』勤務。3児の母でもある。