2022年12月8日に開催された『フェムテックジャパン2022/フェムケアジャパン2022』内で発表された『フェムテックジャパンアワード2022』。多くの投票によって選ばれた受賞ブランドにインタビューを行いました。
特別賞を受賞した『LINGERIENA(ランジェリーナ)』は誕生したばかりのブランドですが、そのデザイン性や群馬県の特産であるシルクを用いている点が支持を集めました。代表の安藤さんに立ち上げた背景やこれから叶えていきたいことなどを伺いました。
紙ナプキンから布ナプキンへ
―『ランジェリーナ』を立ち上げた経緯を教えてください。
『ランジェリーナ』が動き出したのは、約2年半前なのですが、2020年のフェムテック元年と言われたくらいのタイミング。知っている人は知っているという感じでした。私が暮らしている群馬県では、ほぼ知られていなくて、今もまだ分からないという人もいるくらい。
当時は、私自身もそこまで興味を持っているというわけではなかったです。そんな中で、地域のコミュニティースペースをプロデュースする機会があったこともあり、ママをはじめ、女性をサポートしていました。その時に、布ナプキンアドバイザーさんから布ナプキンをいただいたので、「せっかくだから使ってみようかな」と思って、使ってみたんです。
私は肌が弱いものの、利便性を重視して紙ナプキンを愛用していました。なので、ナプキンかぶれを起こして、婦人科に行って塗り薬を処方してもらうという感じ。それを毎月繰り返していたこともあって、生理に対しては、どちらかというとネガティブなイメージを持っていました。でも、かぶれるのは嫌だから、家で過ごす時は紙ナプキンを使わず、汚れてもいいショーツで過ごすなどの工夫はしていました。まだ吸水ショーツがなかった時なので。
そんな感じだったこともあって、布ナプキンを使ってみたら、心地いいし、かぶれる心配もないから「すごーい!」と。ただ、デザイン性や洗濯がネックになって使いたくない気持ちもあったんです。そのような部分をどうにかできないかなと思って、いろいろ調べてみたら、女性の約8割はナプキンかぶれに悩んでいるという情報を見たり、周りにいる女性たちに聞いてみたら「私もかぶれています」という人がいたりすることが分かりました。
そして、デザインの部分でもいろいろと探してみたのですが、私が使いたいと思うものがなかったんです。
―布ナプキンはどちらかというとナチュラルな考え方で作られているものが多いですよね。
はい、そうなんです。オーガニックな生成、またはティーン向けのポップな柄が多い印象がありました。
リサーチを続けていると、シルクのナプキンに出会ったので、購入して使ってみたのですが、すぐにダメになってしまいました。2回ほど洗濯したら、シルクの質感は失われてガサガサになってしまいました。だから、「作ったほうが早いかも!?」と。
私は、ランジェリーが好きです。ランジェリーみたいな雰囲気だったら、取り入れていて気分もいいし、安心して干せると思いました。というのも、いただいた布ナプキンを干していたら、家族から「どうしたの?病気なの?」と聞かれたことがあります。たぶん家族は、干されている布ナプキンを見て、介護おむつのようなイメージを持ったようで、「婦人科系の病気なのかな……」と思ったみたいです。その時に、私らしくないデザインのアイテムを使っていることで、逆に体調を心配されることがあるんだ……ということにも気づかされました。
それまでは、生理用品はあるものの中から、ある意味妥協して選んでいるところがありました。私は紙ナプキンを選んで、毎回ナプキンかぶれが起きて、布ナプキンを使ってみたら家族に心配されるという……。
紙ナプキンにしても、布ナプキンにしても、私自身、取り入れていて違和感がありました。ただ、その違和感をどうにか解消しようというエネルギーが湧かないままだったから、おのずと生理に対してネガティブさを抱えていたんだと思います。どこかで「生理とはこういうものだと」と思って、そのしんどい1週間を乗り切ろうと。それが当たり前になっていて、慣れてしまっていたんだな……と。でも、お気に入りのランジェリーを買った時は、きちんと手洗いをして丁寧に扱うし、気持ちもあがりますよね。それはすごく大事だと思ったんです。
だから、生理期間も「もっと自分が好きなものを使ってときめく期間になれたらいいのに」と思うようになって、生理用品は誰かに見せるアイテムでもないけど、人に見せない部分だからこそ大事にすることで自分が満足するのかなと。
―自分を慈しむ気持ちですね。
はい、そうです!ランジェリーの場合、ブラとショーツのデザインを揃えるなど、コーディネートを気にしますし、楽しんだりしますよね。でも、ナプキンはちぐはぐしている。だから、ランジェリー風の布ナプキンにしたいと思いました。
そして、私自身も含めて、ナプキンかぶれに悩んでいる人が多いことを考えると、もっと肌に心地いい素材にしたいと。そう思った時に、シルクは繊維の女王様と言われているから、布ナプキンに取り入れることはできないかな……。私が暮らす群馬県は日本のシルク産業の基礎。世界遺産の富岡製糸場もあって、昔からシルク産業がすごく有名なのに、私たちは群馬のシルクを使ったことがないと思ったんです。
群馬県には、国産生糸の約6割を生産している『碓氷製糸』という会社があります。さらには、群馬県は県庁に『蚕糸園芸課』という、お蚕の課があるんです。それは群馬県だけ。専門の課があるにも関わらず、シルク産業が衰退しかけているのはどうなっているんだろうという気持ちもありました。
―そこまで一気に関心を抱くようになったのは、生理や生理用品に対してネガティブな印象も持っていて、知識としても豊富ではなかったから、どんどん吸収していった感じですか?
そうなんです。例えば、経営塾みたいなところに行くと、「好きだからこういうことを始める人、いるんだよね」と言われました。でも、私は真逆。好きではなかったからこそ、ネガティブで嫌いな世界を、私みたいな人が好きになるにはどうしたらいいんだろうと思ったところからが始まりです。そこが私なりの課題解決。
―だからこそ、どんどんつながっている感じがありますか?
はい。群馬県で暮らしている私が知らないということは、知らない人は多いだろうなと。自分の身体を気にしたこともなかったけど、40代になってこの後どうしていくのかなと考えた時に、女性特有の課題は出てくると思ったんです。そう思った頃にフェムテックという言葉が広がり始めて、世の中の流れとしてもそういう意識が高まってきたんだろうなと感じました。
―フェムテックという言葉は、女性の健康課題に対して、テクノロジーを用いて解決へと導くサービスやアイテムのことを指してはいますし、フェムケアはテクノロジーを用いていないサービスやアイテムのこと。ただ、安藤さんはフェムテックやフェムケアという言葉を用いているものの、健康課題になる前の暮らし方や考え方といった根本部分を大事にされているように感じます。
そう言われて、改めて考えたのですが、私の性質なんだと思います。以前はブライダルで司会業をしていたのですが、その時もストーリー性や背景を大切にして取り組んでいました。プロダクトを作る時も、ただ見た目を素敵に整えるというだけではなくて、その奥にあるストーリーがモノとしての魅力、オーラにつながると感じているんです。
『ランジェリーナ』は、当初から世界を目指しています。世界に持って行く時に、言語が通じない国に対して何で伝えていくかというと、そのオーラだと思います。
『ランジェリーナ』は、ひとつひとつミシンで作っているのですが、作り手のおばあちゃんたちからすると、自分たちは使わないアイテム。でも、作り始めるとアイテムに対する理解が深まってきました。そういう背景も魅力やオーラにつながりますよね。
―作り手のおばあちゃんたちも使ってみたかったかもしれないですね。
『ランジェリーナ』をお渡しすると、「こんなに素敵なの?」「今の子はこういうのを使うの?」と言われたことがあります。「これまではなかったから作ったんですよ」と伝えると、合点がいくみたいです。
そして、この約2年半で一番苦労したのは、繊維業界の方々とのやりとりです。私のようにまったく違う業界から入っていくというのはすごく難しいこと。
―そうなりますか……。これまでの習わしや大人の事情もありそうですね。
群馬県は地方ですし、繊維業界としてのプライドもありますよね。そんな中で、「こういうのが作りたい!」とお伝えすると、「中国産シルクを使ったらいいよ」と言われたこともありました。しかも、男性ばかりだったので、余計に「生理用ナプキン……?何を言っているの?」という感じ。いろんな繊維会社さんを回りましたが、難しい反応ばかりでした。
―流れが変わったのは、その想いや熱意が伝わったからですか?
弊社のプロジェクトは、男性の知人や友人にも協力してもらっています。私は、フェムテックは女性だけの問題ではなくて、女性たちだけで理解しあっているだけではダメだと思っています。『ランジェリーナ』のプロジェクトが立ち上がった時に、すべて女性メンバーで固める話も合ったのですが、男性に関わってもらうことはすごく大事だと、改めて思いました。
女性は興味があれば、手に取ってくれますよね。でも、男性は踏み込んではいけない領域かもと思う可能性があることを考えると、自らアクションをする難しさがあります。でも、仕事だったら、触らざるを得ない理由が生まれますよね。そうすると、学び始めるわけです。繊維業界の男性たちも当初は渋い表情をしていましたが、打ち合わせを重ねるにつれて、「もっとこうしたほうがいいんじゃないか」と、提案してくれるまでになりました。
仕事としてかかわったことでだんだんと自分事になっていき、今では私と普通に生理の話をするようになりました。「わぁ、これがフェムテックだ!」と感じて、すごくうれしいです。
―投票コメントには、シルク産業を意識したモノ作りに対する支持も多く見られたことを考えると、その想いがアイテムを通して感じられたことが、今回の受賞にもつながっていると思います。
ありがとうございます!まだ発売前のアイテムにも関わらず、関心を持っていただけたのは本当に嬉しいです。
―一見、ネクタイにも見えるパッケージにもこだわりを感じました。
そうなんです!みなさんが手に取りながら、なんだろう?と。そして、ときめいてくれる姿を想像してデザインをお願いしました。ランジェリーナをお渡しした方の中には、「眺めているだけでうっとりします」とか「飾っておきたいくらい。これを見ていると、生理がくるのが楽しみなる!」というお声をいただけて、想像していたことが現実となりました。このパッケージのこだわりにはそんな想いも詰まっています。
―まさに、想像されていたことが現実になっていますね。
フェムテックは、課題や不調を解消できるアイテムがあって、女性たちだけが満足していればいいという問題ではないですよね。その奥には男女、相互の理解が必要。私が布ナプキンをはじめて取り入れた時に、違和感を持って家族が私に伝えてくれたことも、嬉しく思っています。
―スルーすることもできたし、言ってはいけないことかもと思って、気を遣って言わなかったもしれないですもんね。でもそれは、それまでのご夫婦の関係性があったからこそです。
ありがとうございます。今では繊維関連でお話をする年配男性の方も、生理のことを知ってくれて、「俺たちが若い頃はこんな話はできなかった」と言っているのを聞いて、すごく嬉しいです。「そういう時代がきましたよ」と話したりしています。
―これから先はどんなことを思い描いていますか?
『ランジェリーナ』をサンプリングする時は、生理用品という言い方をしていますが、“ランジェリーナはランジェリーナ”という想いを持っています。カテゴリーとしてランジェリーがあり、ブラジャーやショーツというアイテム名があるように、ランジェリーナもアイテム用語として認識されるようになりたいと思っています。
伝わりやすいように、生理用品という言葉を用いることもありますが、生理期間だけではなく、温活アイテムとして取り入れていただいてもいいし、おりものや尿漏れ対策として取り入れていただくこともできます。取り入れる人の好みに合わせて使ってもらえるアイテムとして広まっていくと嬉しいです。
LINGERIENA(ランジェリーナ)
https://juna.style/
以上、『Femtech Japan Award 2022』で特別賞を受賞した、JUNA株式会社『LINGERIENA』代表・安藤淳子さんへのインタビューをお届けしました。
No.00024