妊娠・出産

後陣痛(こうじんつう)にむくみ、気持ちの不安定……産後直後に起こる心身の変化と対処法

出産直後から数ヶ月後まで、身体と心にさまざまな変化が起こると言われています。出産直後を中心に、その代表的な症状と対処法などを、産婦人科医の新村朋美先生に教えていただきました。

むくみやすくなるのも身体の変化のひとつ

むくみやすくなるのも身体の変化

個人差はありますが、出産後にはさまざまな変化が出てきます。お産直後の身体の変化として、悪露(おろ)、後陣痛、むくみなどが挙げられます。

【悪露】は胎盤や子宮内に残った内膜などが排出されるために起こる出血
出産すると悪露といって、胎盤や卵膜がはがれたところからの分泌物(血液やリンパ液)が排出されます。時として、子宮内に残っていた胎盤の小さなかけらや卵膜が出ることも。そのため約1ヶ月前後、出血が続きます。赤色、ピンク色、褐色、黄色、白色と変化していき、妊娠前の状態に戻っていきますが、もし出血が多すぎると感じる時や血液以外のものが出る場合は担当医に相談してください。

【後陣痛】大きくなった子宮が戻っていくため子宮収縮が起きるために痛みを感じる
出産後は、大きくなった子宮を戻そうとして収縮が起こるため、後陣痛と呼ばれる痛みを感じます。後陣痛は産後、数日間続き、授乳時には増強すると言われていますが、徐々に薄れていき、痛みは感じなくなります。

【むくみ】身体の循環が変化することで起こりやすくなる
妊娠後期になるとお腹が大きくなり、出産に備えて血液量が約1.5倍に増えるなど、血流が滞りやすくなります。また、出産後は大きくなった子宮が戻ることで身体の循環が急激に変わることでむくみやすくなります。

入院時に履いていた靴が履けなくなることもありますが、徐々に改善していきます。気になる場合は、着圧ソックスを履く、寝る際は足を高くする、マッサージをするなどで、対処してみてください。

このほかにも、お産の際に会陰切開した場合、帝王切開でのご出産の場合は傷の痛みがありますし、尿意の感覚が薄れてしまうこともあります。

女性ホルモンの影響で起こる変化もある

女性ホルモンの影響

悪露、後陣痛、むくみなどは、妊娠した身体を戻そうとすることで起こる変化になります。

例えば、後陣痛はオキシトシンというホルモンの影響はあるものの、いわゆる女性ホルモンの変化によって現れる代表的な症状としては、抜け毛や精神的な変化になります。

妊娠期間は、これまでとは比べ物にならないくらい胎盤から女性ホルモン(エストロゲン)が分泌されているのですが、出産後、胎盤が排出されることによって急激に下がります。そのため、くよくよしやすくなったり、涙もろくなったりと、気持ちが不安定になりやすいといった、マタニティブルーズと呼ばれる症状が現れやすいです。ただ、産後に起こる症状のひとつで、個人差はありますが、誰もが経験すること。多くは2週間程度で症状がなくなり、徐々に安定していきますので、安心してください。

産後に起こる抜け毛も同じです。妊娠期間は女性ホルモンの分泌量が高まっていることもあって、毛が抜けにくくなるため、妊娠前の毛周期から変化しています。本来抜ける毛が、妊娠によって抜けなかった分、産後に一気に抜けていきます。

産後約1年かけて毛周期が戻ってきますが、気になるという場合は、カラーリングや紫外線など、ダメージになることは極力避けましょう。血流を促すための頭皮マッサージ、ヘアケアアイテムを変えるなどで対策するのもおすすめです。

産科、小児科、保健センターなどに相談する

SOS

身体も、気持ちも変化が起こりやすい中で、子育てをしていくことになります。普段は気にならないことが気になってネットで検索して悪い方向に考えてしまう……ということもあるかもしれませんし、孤独を感じやすいかもしれません。

病院によってはうつのセルフチェックリストを渡しているところもあります。自分の気持ちが産後1ヶ月経っても落ち着かなくて、くよくよしやすい、落ち込みやすい、やる気ができない、今までやっていたことができない、楽しいと思えないといった気持ちがある時は、産後1ヶ月健診の時に相談してください。

産後、数ヶ月経過してもメンタルが改善しないような場合は、産後うつと呼ばれるようになり、治療が必要な状態です。まずは産後1ヶ月健診の時がタイミングのひとつ。それ以降は赤ちゃんの健診、例えば、ワクチンデビューの時などで小児科に行く際に、「私自身の調子が悪いです」と話していただいても問題ありません。メンタル症状についての相談や受診は特別なことだと思ってしまうところがありますが、最近は妊婦のおよそ10~20%は産後うつになるという報告もあります。特別なことではなく、自分自身にも起こる可能性があることです。

気になる症状がある、その症状が長引いている場合は、産科、小児科、保健センターなど、ご自身がアクセスしやすいところに相談してください。

パートナーや家族に共有して、知ってもらう

パートナーや家族

お母さんは出産したからではなく、育児を通して母としての自覚と責任を育てていきます。それはお父さんも同じ。父としての自覚や責任を認識することは大事だと思いますので、しっかり育児に参加しましょう。授乳以外の育児はお父さんにもできることです。

そして、パートナーをはじめ、周りにいる家族、知人も含めて、産後は変化が起きる時期、変化があって大変な時期ということを知ってもらうことも大切です。お互いに遠慮してしまうところもあるかと思いますのです、ちょっとしたことでも話すことは大事にしてください。例えば、家事や育児に関して、「もう少しこうしてほしい」と具体的に伝えたり、「皿洗いとお風呂の準備が残っているんだけど、どっちがいい?」と選択してもらったり。察してもらうのではなく、言わなくても分かるだろうではなく、具体的に伝えることで動きやすくなります。

お母さん自身も子供と向き合うことにエネルギーを注いでいると思うので、これまでできていたことができなくなることもあると思います。マルチタスクで進まないもどかしさが出てくるかもしれませんが、例えば、「今日はここまで」という最低ラインを作って、「子どもが元気で過ごせていればOK」という感覚で。

規則正しい生活習慣が健康を支える

規則正しい生活習慣が健康を支える

育児をしていく中で腰痛や肩こりが起きたり、尿意は戻ってきたけどせきやくしゃみで腹圧がかかると尿漏れをしたり……と、出産直後とは異なる身体の変化を感じることがあると思います。そのような変化が続く中で生活のリズムをつかむのは難しいと思いますが、食事、睡眠、運動といった、健康習慣は意識していただきたいです。

赤ちゃんと一緒にお散歩をするなど、身体を動かすことで血流がよくなり、腰痛や肩こりの解消につながりますし、骨盤ベルトなどのツールを活用するのもおすすめです。ついつい自分の食事を後回しにしがちになりますが、きちんと食べて、眠れる時は少しでも眠るなど、今の自分の生活スタイルに無理なく取り入れられることをコツコツと続けてください。

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産婦人科医 新村朋美先生

東京医科大学産科・婦人科を経て、赤枝医院に勤務。プライベートでは二児の母。日本産婦人科学会認定 専門医、新生児蘇生法「専門」コース 修了認定、母体保護法指定医、日本産科婦人科遺伝診療学会認定医、日本女性医学学会専門医。