幼児期・学童期

性的同意はより豊かな人生につながること。自分の境界線を知って、パートナーに伝えよう

明治時代から約110年変わっていなかった性犯罪に関する刑法が、2017年に大幅に改正され、さらに2023年には、刑法上の性交同意年齢(性行為に同意する能力があるとみなされる年齢)が、13歳から16歳まで引きあげられました。同時に、不同意の条件もしっかりと明確化されたことは大きな話題に。

性的同意について、どこまで知っていますか?長年連れ添ったパートナーであっても、性的同意を確認する必要はあるのでしょうか。そこで、対等なパートナーシップの意識醸成に努められているNPO法人ピルコン理事長・染矢明日香さんに教えていただきました。

そもそも性的同意とは何?
性的同意とは何

「性的同意とは、すべての性的な行為に対して、お互いが積極的に望んでいるかどうかを確認することをいいます。性行為以外にも、手をつなぐ、キスやハグ、性的な話をすることなどもその中に含まれます。性的同意とは、性行為の意味やリスクを理解したうえで、お互いが対等な関係性でオープンにコミュニケーションが取れることが大前提となります。また、パートナー間であっても、本当は嫌だったな……と、後から感じるもやもやを解消するためにも、性的同意はとても大切なことです」(染矢明日香さん・以下同)

「嫌よ嫌よも好きのうち」の落とし穴

「日本では、『嫌よ嫌よも好きのうち』という言葉が使われることもありますが、実際は、『No means No』つまり、『嫌よ嫌よは、嫌』なんです。今回の法改正では、同意がなかった場合に性犯罪になるとありましたが、ヨーロッパ諸国では、“積極的に同意した行為以外は性暴力になりうる”。『Yes means Yes』とする、さらに加害者側に厳しい法に改正する国も増えています。いきなり性的言動が始まると、相手は驚きや恐怖で身体が固まり、意思表示が難しくなってしまうことがあるため、性的な行為をしたいと思ったほうが、相手の同意をとる責任があるという考え方なのです。

望んでいない行為は、苦痛やしんどさにつながります。まずは、自分や相手がどこまでがOKで、どこからがNGなのかという境界線を理解し合い、受け身になるだけではなく、何をしたいか、何をしてほしいのか、意思表示をしていくことも必要になっていきます」

性的同意は自分も、相手も思いやること自分も、相手も思いやること

「特に女性の場合、性的なコミュニケーションに積極的だと男性に引かれてしまうのでは……と、不安や心配を感じる人もいると思います。逆に、性行為の時間自体を楽しめていないのに我慢している人も少なくありません。

性的同意に関わらず、自分の意思を伝えるということは、お互いの信頼関係のもと話し合える状況であり、回数を重ねていくことで培われるもの。普段の生活の中でも、「今日は、○○は食べる気分じゃないかな」「○○が食べたい」と、相手に意思を伝える練習ができる機会はたくさんあります。伝えることが苦手な場合は、まずはここから始めてみるのもいいでしょう。それ自体が難しい場合は、そもそも対等な関係性とは言い難いのかもしれません。

手をつなぐことやキスをすることは家の中ならOKでも、人前では嫌と思う人もいますし、人前でも平気という人もいます。境界線はひとりひとり違うものだからこそ、「○○は大丈夫?」「○○したいけど、どう思う?」など、自分の意思を伝えながら、相手の気持ちを確認していくことが大事です。手のつなぎ方や腕の組み方など、性行為以外のことの確認から始めてみると、ハードルはぐっと下がると思います。

また、断る時は、こういう理由があるからと説明したり、ここまでだったらいいよと代替え案を提案することも、相手に思いやりを示すことに有効です」

断れる関係性を築いていく
断れる関係性

「どんなに生活を共にしているパートナー間でも、その日の気分で食べたいものが変わるように、気分が変わることがあります。相手に断られた時は驚いたり、ショックを受けたりすることがあるかもしれないですが、安心してください。

Noとは、その提案に対しての答えであって、その人自身を否定しているわけではありません。無理をして相手に合わせてYesと言うより、嫌なことをNoと言えることは、とても健全な関係性だと言えます。

性行為は人生をより豊かにするものと考えるのならば、性的同意とは、お互いがもっと心地よくいられるためのスタート地点と言えます。パートナー間でここまでならいい、ここまではダメと話し合えることは、性的同意に関わらず、深い信頼関係を構築していくことにつながっていきます。長らく関係性を持ったパートナーほど、話しにくさがあるかもしれませんが、ルールを見直す機会を定期的に作れる関係を大切にしてほしいと思います。

そして、性的同意はセックスレスとも関係があります。断ってしまうことがセックスレスの入口のように感じてしまうかもしれませんが、お互いの意見を出し合うことでふたりの行為をより豊かにしてくれる可能性があります。

挿入があって射精で終わることだけが性行為というわけではなく、性行為のバリエーションは豊富です。好みは人によって違いますし、年齢による影響も起こり得ます。服を着たままマッサージをしあったり、抱き合ったりすることで、お互いの安心感につながるのであれば、それもひとつの性的同意のスタイルであり、性行為のスタイルです」

現代でも有効なYes / No 枕

「性的同意は、ふたりの関係性や人生をより豊かにしてくれます。なかなか声に出して伝えることが難しい場合は、お互いにサインを決めておくという方法もあります。

Yes / Noとデザインされた枕で意思を伝えることに似ていますが、特定の合言葉やLINEスタンプを送ったら『今日はOK!』、行為中に『布団を2回タップしたら一旦ストップ』など、自分たちが楽しめる同意の取り方を事前に話し合うのもおすすめです」

執筆/松岡真生

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NPO法人ピルコン代表 染矢明日香さん

学生時代に自身の経験から「避妊啓発団体ピルコン」を設立し、性の健康の啓発活動を始める。2013年に「NPO法人ピルコン」を設立。若者ボランティアの育成をしながら、性について学べる機会を提供し続けている。