すべての女性に訪れる更年期。その時期に現れる症状であるホットフラッシュや不眠などの更年期症状については知る機会が増えていますが、「実は、血管硬化と骨密度の低下という健康に影響する変化も起きやすくなります」と教えてくれたのは、産婦人科専門医の山村菜実先生。
そこで、閉経後に気を付けたい血管硬化と骨密度の低下のこと。さらにはその対策法についてお話を伺いました。
エストロゲンの分泌変化が大きな要因
「閉経後に起こる身体の変化には、女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンの分泌量が下がることが影響しています。エストロゲンの分泌量は、年齢とともに下がっていくものではありますが、その下がり方には個人差があります。
なだらかな下降だった場合、その変化に身体が適応しやすくなるため、いわゆる更年期症状は軽いと考えられます。一方、急激に下がってしまった場合、身体が適応できず、更年期症状が現れやすくなると言えます。
更年期は、閉経を中心に前後5年の計10年間を指します。すべての女性は更年期を迎えますが、その期間に症状が現れるかどうかは個人差があります。そのことを踏まえたうえで、自分の健康状態に目を向けることが重要です。そして、更年期症状以外にも、エストロゲンの分泌が減少することで起こりやすくなる血管硬化と骨密度の低下も気をつけましょう」(山村菜実先生・以下同)
閉経後の健康リスク【血管硬化】
「エストロゲンには血管を柔軟に保ち、コレストロールの蓄積を抑える働きがあります。そのエストロゲンが減少する閉経後は、血管が硬化しやすくなり、動脈硬化や高血圧、心筋梗塞などのリスクが高まるとされています」
血管硬化の対策1:食事改善
「悪性コレステロールを抑えて血管を健康に保つために、野菜や果物、魚、大豆製品、食物繊維を積極的に取り入れることが推奨されています。逆に、飽和脂肪酸を多く含む食品は控えましょう」
血管硬化の対策2:適度な運動
「血流を促し、血管の柔軟性を保つことが大切です。ウォーキングや軽いジョギング、筋トレなどの適度な運動は日常的に取り入れていきましょう」
血管硬化の対策3:適宜ストレスをリリース
「ストレスは血圧の上昇や血管に負担をかけます。意識的にリラックスする時間を作ることや趣味を持つことでストレスの解消につながります」
血管硬化の対策4:禁煙・適度な飲酒
「喫煙は血管を収縮させるため、動脈硬化を促進してしまいます。また、飲酒は過剰摂取すると逆効果ではありますが、例えば、少量の赤ワインなどは血流改善に役立つとされています」
閉経後の健康リスク【骨密度の低下】
「エストロゲンの減少によって、骨の新陳代謝が乱れるため、骨密度が低下します。更年期の女性に骨粗しょう症が多いのはそのためです。ちょっとした刺激で骨折のリスクが高まりますので、気を付けたい事柄です」
骨密度低下の対策1:カルシウムとビタミンDを摂取
「骨の主成分はカルシウムです。牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品や小魚、大豆製品、葉物野菜などに多く含まれていますので、日常的に取り入れていきましょう。
また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDも同時に摂取したいところ。太陽の光を浴びると体内で生成されますが、近年は紫外線対策をしている人が多いため、ビタミンDを豊富に含む、サーモンやイワシなどの魚を食べることもおすすめです」
骨密度低下の対策2:適度な運動
「動脈硬化の対策と同様に、適度な運動は骨密度の維持に役立ちます。骨に適度な負荷をかけることで骨の新陳代謝が促され、強くなります。ウォーキングや階段を利用することが有効です」
骨密度低下の対策3:禁煙・適度な飲酒
「喫煙やアルコールの過剰摂取は、血管硬化になりやすくなるだけでなく、骨密度の低下にもつながります。これらを控えることで骨の健康を保つことができます」
骨密度低下の対策4:ホルモン補充療法(HRT)
「閉経後の女性にエストロゲンを補充する治療法のことです。骨密度の低下を抑える効果が期待されていますが、副作用やリスクもあるため、医師と相談したうえで検討しましょう」
定期的な健康診断と骨密度検査を
「血管硬化と骨密度の低下の共通した対策は、定期的な健康診断です。血圧やコレステロール値、血糖値の定期的にチェックすることで血管硬化の早期発見・対策が可能になりますし、骨密度検査を行うことで骨粗しょう症の兆候の有無がわかります。必要な治療を行うことで進行を防ぐことにもつながりますので、更年期世代には必要な検査です。
また、閉経後も婦人科検診は受けましょう。定期的な健康診断と婦人科検診は何歳になっても、健康維持のためには必要なことです」
【性別に関係なく訪れる更年期の知っておきたい基本情報 】
執筆/木川誠子
No.00146