女性の体と悩み

妊娠悪阻って何?つわりとの違いを医学博士が伝授

科学誌である『Nature(ネイチャー)』に掲載された、イギリスの『ケンブリッジ大学』が主導した研究論文が話題に!そこには妊娠悪阻(にんしんおそ)になるリスクを低減できる可能性が示されました。

当事者でないかぎり関係のない事柄だと思いがちですが、知識として得ておくことで助けになることがあると考え、妊娠悪阻とは何か、一般的なつわりとの違いを含め、日本とアメリカでの研究経験を活かして独自の発信を続ける、乳腺放射線科医・医学博士 フォックス岡本聡子先生に伺いました。

つわりは妊娠初期に出てくる不快な症状

妊娠悪阻って何?

「妊娠初期である5~6週頃から見られる、不快な症状をつわりと言います。吐き気、嘔吐、食欲不振、ニオイに敏感になるなどが症状として挙げられますが、安定期に入る12~16週頃には落ち着く傾向にあります。

妊婦の50~80%がつわりを経験すると言われていますが、まったく症状が出ない場合もあるため、個人差があります。

つわりが起こる原因ははっきりと解明されていませんが、妊娠すると女性ホルモンであるエストロゲンや、受精卵が着床することで分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と呼ばれるホルモンの分泌量が急上昇します。そのホルモンの変化が原因のひとつだと考えられています」

妊娠悪阻は治療が必要なほどの重たいつわり妊娠悪阻は治療が必要なほどの重たいつわり

「つわりが重症化したものを妊娠悪阻と言います。妊婦の約03~10.85%が経験すると言われており、妊娠5~8週頃から症状が見られます。

頻繁に起こる嘔吐や食欲不振によって、体内から水分や電解質が失われ、健康を維持するために必要なエネルギーや栄養素を補うことができなくなります。この場合、適切な治療が必要であり、そのままにしておくと脳や肝臓に障害が出るなど、重篤な合併症状につながるだけでなく、早産や低出生体重児とも関係しているとされています。

また、『Nature』に掲載された論文によると、つわりの重症度は胎児が創り出す成長分子因子15(GDF15)の量と、GDF15の吐き気作用に対する妊婦の感度が関係していると示されています。このGDF15はすべての人間の体内で作られており、その血中濃度は加齢、激しい運動、がん、喫煙などで上昇することも分かっています。

さらに、つわりや妊娠悪阻は遺伝が関係している可能性もあり、双子などの多胎妊娠の場合は症状が重くなる傾向にあります」

予防はできず、自己判断にゆだねられる

「つわり、妊娠悪阻は研究が進められてはいますが、現時点では原因は解明されていないため、予防することは難しいです。ゆえに、日常生活に支障をきたしているか、症状が重くなってきているかなどの主観によって、受診するかを自己判断することになります。

ですが、主観にゆだねられると、一概に気持ち悪いと言っても、我慢できる程度に個人差が出てきます。我慢強い人の場合は、ギリギリまで我慢してしまい、治療を始めるタイミングが遅くなってしまう可能性も。中には、妊娠は病気ではないからと、つわりの症状があっても、少しくらい重たい症状であっても我慢するべきだと考えている人もいると思います。また、つわりや妊娠悪阻の症状は安定期に入る前に見られるため、周りに相談しにくいところもあります。

だからこそ、妊娠悪阻があることを知識として得ておくだけでも、自分自身が妊娠した時だけではなく、友人や仕事仲間が妊娠した際に適切な受診がすすめられることにつながります」

自己判断に頼りすぎず、妊婦検診で相談する
妊婦検診で相談する

つわりや妊娠悪阻が起こる原因はまだ解明されていないことから予防が難しく、主観的な判断にゆだねられている部分があります。だからといって、「私は大丈夫かな……」と心配しすぎるのはストレスになるので、妊婦検診を上手に活用してください。

「こんなことで相談してもいいのかな……」と思うことがあるかもしれませんが、妊婦検診は気になることはもちろん、ささいなことでも確認・相談するいい機会です。妊娠期間を健やかに過ごすためにも、正しい知識を得ながら、気になることはその都度相談していきましょう。

執筆/木川誠子

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乳腺放射線科医・医学博士 フォックス岡本聡子先生

日本で臨床・研究を経験した後、スタンフォード大学での研究留学を経験。その経験を活かし、乳がんで亡くなる方をひとりでも減らしたいと思い、『Breast awareness』などのコミュニティーを主宰するなど、多角的に活動。さらには、自身の経験をもとに流産や妊よう性の領域でも発信を続けている。