輸入した布ナプキンを没収された時に、女性の身体にまつわるさまざまなものに規制がかかっていることを知った。作家・ラブピースクラブ代表 北原みのりさん~前編~【FJCトークルーム vol.3】

『フェムテックジャパンカレッジ』が聞き手となり、フェムテック領域で活躍する方々との対話をお届けする、対談企画『トークルーム』。

第3回目は、女性のためのセクシャルウェルネスショップ『ラブピースクラブ』の代表であり、作家でもある北原みのりさんです。大学生の頃から女性の身体や性について向き合っている北原さんが『ラブピースクラブ』を始めたのは、性の情報や性のことを率直に語れる友達、場所を作るためでした。

海外のアダルトグッズショップを見て衝撃が走った

ラブピースクラブ①

フェムテックジャパンカレッジ(以下、FJC): 北原さんが『ラブピースクラブ』を設立した経緯を教えてください。

北原みのりさん(以下、北原さん):もともと大学生の頃に性教育を研究していたことがあり、その頃から性にまつわる何かをしたいという想いを持っていました。

1996年に会社を立ち上げた時は、ネットが一気に普及していた時代でしたし、私自身、コンピューターが好きだったこともあり、ホームページの制作会社として始動しました。その時に仕事のリサーチを兼ねていろんなサイトをチェックしていたのですが、女性向けのアダルトグッズを展開する海外のサイトに出合い、衝撃を受けたんです。

トイひとつとっても男性器の形をしているタイプはなく、それまで持っていたイメージとまったく違いました。「女性の身体のことから発信するセックスグッズは、こんなにイメージが変わるんだ」とびっくりして、「自分でも作ってみたい!」と思ったのが始まりです。

FJC:もともと性にまつわることがしたいと思っていましたし、そのお店に出合ったことで具現化したということですか?

北原さん:はい。海外のいろんな商品を見ていくうちに、バイブレーターだけではなく、日本では見たことがない生理用品もありました。その頃から月経カップはあったので、『ラブピースクラブ』で仕入れて販売を行いました。

その頃からずっと女性の身体にまつわることをしていて、2017年頃にフェムテックという言葉を知ったことで、「いい言葉だ!」と思い、大人のおもちゃではなく、フェムテックと言うようになったという感じです。

例えば、生理の話をすること自体、男性中心の組織の中ではタブーのように捉えられてきました。でも、フェムテックという言葉を使うことで、これが健康のことであると認識されて、話し合える土壌ができたという印象があります。

設立当時から大変ではなく、楽しい!

FJC:大学生の時に性教育を研究されていたとのことですが、そもそもそのカテゴリーに興味を持ったきっかけはありますか?

北原さん:女性の性に対して嫌な思いをしていることがすごく多いというのが前提にあります。私自身もそうですが、周りの友達に聞いてみても、痴漢にあったことがない女性はいないくらい、何かしら嫌な思いを経験しています。

また、会社を立ち上げた当時は90年代で、私が40代、50代になった時にどう生きるか想像ができませんでした。中高年向けのファッション雑誌なども今はたくさんありますが、当時は限られていました。

女性が生きていくのが難しい社会だと思っていた中で、ちょうどジェンダーという言葉が出てきた時でもあったので、男女平等を実現できる社会にしたいと思い、それを学ぶには教育のジャンルだと。性教育は人権教育だと思うので、そのあたりを勉強したいと思ったことがきっかけです。

FJC:1990年代はまさに男性優位ですよね。今でもそういうところがあると思うので、90年代からこれまで続けてきた過程では大変なこともあったのでは……と想像します。

北原さん:実は、そうではないんです。『ラブピースクラブ』を設立したのは、ただビジネスをしたいというだけではなく、自分の場所や仲間がほしかったから。女性が安心して性を語れ、プレジャーを肯定できる場所をみんなで作ってこれたことが財産だと思います。

むしろ今のほうが戦っているかも

ラブピースクラブ②

FJC:みんなが話せるコミュニティーを作っていくというイメージですか?

北原さん:はい。「大変だったんじゃないですか?」と言われることも多いですが、むしろ楽しかったと思っています。新しい性の情報や性のことを率直に語れる友達、場所は、「やっぱりみんなほしかったよね」と。

私の気持ちとしては、当初から戦っている感じはなく、今のほうが権力と戦っていると思います(笑)。

FJC:権力と戦っているとは、薬機法などの話ですか?フェムテックには薬機法が大きくかかわっていると思うのですが。

北原さん:はい、薬機法のこともあります。少し話がずれてしまうかもしれないのですが、弊社が生理用品を初めて輸入したのが、1999年頃です。当時は、生理用品を輸入すると税関でストップするということを知らなくて、布ナプキンを輸入したら全部没収されました。その時は、「ふざけるな!」と激怒しました(笑)。「女性が自分の整理の時に使うための布なのに、なぜ危険物扱いするんですか?」と。その時に女性の身体にまつわるさまざまなものに規制がかかっていることがわかりました。一方で、アダルトグッズに関してはあいまいです。

アダルトグッズに関しては、90年代後半くらいからはヨーロッパでセックスグッズのトレードショーが始まります。ヨーロッパのセックスグッズ産業の雰囲気や環境、法律も日本とはまったく違うと感じました。

例えば、バイブレーターにはCEマーク(※1)が入っていて、それはつまり、バイブレーターの安全が定義されているということです。腟トレグッズも初めて見た時は「これはなんだろう?」という感じでしたが、あっという間に広がっていきました。

ラブピースクラブ③

当事者だからこそ向き合い、続けられている

FJC:なるほど……。アイテムを輸入し、お客様に届けるまでの過程にもいろいろありますよね。

北原さん:『ラブピースクラブ』は私が 20代の頃から始めているので、イメージとしては私よりも若い世代にバイブレーターや生理用品を販売していくのだろうと思っていました。でも、いざ始めてみたら年上の人に説明していることが多かったです。

私も説明しながら、女性は本当に身体が変化していくし、死ぬまで性について考えていくことになるんだ……と。私自身も年齢を重ねたことでそういうふうに感じられるようになりましたし、当事者でもあるので続けられているのだと思います。

FJC:確かに、自分のライフスタイルと一緒に歩んでいるというのは大きいと思います。後編では、北原さんがすごいと思った世界のフェムテックについてなどをお話しいただきます。

>>>後編はこちらから

※1
EUで販売される指定の製品が、EUの基準に適合していることを表示するマーク。 CEマーキングによってその製品が、分野別のEU指令や規則に定められる必須要求事項(Essential Requirements)に適合していることが示されています。

(プロフィール)
北原みのりさん
作家、ラブピースクラブ代表、希望のたね基金理事。1996年から女性のためのプレジャートイショップ『ラブピースクラブ』を始める。著書に『メロスのようには走らない。女の友情論』(KKベストセラーズ)、責任編集した『日本のフェミニズム』(河出書房新社)、佐藤優氏との共著本である『性と国家』(河出書房新社)などがある。

執筆/木川誠子

No.00055

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