女性の体と悩み

将来の妊娠を考えるうえでの選択肢に!卵子凍結の歩みと基礎知識

東京都で『卵子凍結に係る費用への助成』『卵子凍結を使用した生殖補助医療への助成』の助成制度が開始されたことから、卵子凍結がより身近な選択肢になってきました。

卵子凍結は将来の妊娠を考えるうえでの選択肢のひとつとされていますが、どのくらい知っていますか?今回は、卵子凍結の認定医療機関になっている『医療法人財団 小畑会 浜田病院』院長の合阪幸三先生に、卵子凍結のこれまでの歩みや基本的な知識・情報を教えていただきます。

卵子凍結が可能になったのは1985年から

卵子凍結

「1985年にガラス化保存法(※)が開発されたことで、未受精卵、つまり卵子そのものの凍結が行えるようになりました。

それまでは受精卵は可能でしたが、卵子をそのまま凍結することはできなかったのです。その理由は、卵子が精子と出会い受精卵になると、2細胞、4細胞と細胞分裂が起こります。そうすると細胞が小さくなっていくので凍結が可能になります。ですが、卵子はひとつの細胞単位で見た時に、身体の中でもっとも大きな細胞です。大きな細胞をそのまま凍結しようとすると、凍結させることよりも正常に解凍することが難しくなります。そのため、長らく未受精の卵子を凍結することができなかったのですが、ガラス化保存法の開発によって行えるようになりました。

精子凍結は1950年頃から行われていたことを考えると、それだけ困難だったことがわかります」(合阪幸三先生・以下同)

卵子凍結はがん治療者の選択肢だった

「卵子凍結が適用され始めたのはがん治療者からです。生殖細胞である卵子と精子は、がん治療で使われる抗がん剤にとても弱く、死滅してしまいます。そのため、抗がん剤治療に入る前に卵子凍結を行っていました。その時にパートナーがいる場合は、受精卵として凍結することもあります。

このように治療による影響がある方に卵子凍結は適用されていました。近年では、女性が35歳〜40歳以上で子どもを出産するケースが増加傾向にあるため、社会のニーズに合わせて将来の妊娠の選択肢としても適用されています」

卵子凍結の年齢基準は18~39歳が目安

年齢基準は18~39歳

東京都の助成制度である『卵子凍結に係る費用への助成』は、“東京都に住む18歳から39歳までの女性(採卵を実施した日における年齢)”が対象になっています。合阪先生は、「助成制度の対象年齢である18~39歳を目安に考えたうえで、早いタイミングで選択するのがいいと思います」と話します。

「その理由は、生殖細胞である卵子は加齢の影響を受けます。人生100年時代と言われていますが、それは医療が発展したことによるものであり、生殖機能が長生きになったわけではありません。そのため、加齢の影響が少ない年齢で採取することがいいと言えます。

また、凍結した卵子が必ずしも正常に解凍されるとも限りません。凍結した精子の場合、約90%が正常に解凍されますが、凍結卵子は約30%とされています。そのため、一度に10~20個の卵子を採取したうえで選りすぐりを凍結していきます。

ただし、卵子は基本、月に1個のペースで排卵されていますので、卵子凍結をする際は排卵誘発剤を使用して意図的に過排卵を誘発します。そして、経腟超音波で卵巣を確認しながら卵子を採卵針で採取していくので、麻酔はするものの痛みはありますし、お腹の中で出血する可能性もあります。

身体に負担がかかるという意味でも、年齢的に早いタイミングでの選択がいいと思います」

卵子凍結のメリットとデメリット

●合併症などのリスクを下げることができる

「例えば、キャリアがひと段落した40代で妊娠を望んだ場合、自然妊娠の確率は低く、不妊治療を行う可能性が高くなります。費用の負担額も増えますが、なにより精神的な負担がとても大きいです。そして、不妊治療の末妊娠をしても胎児に異常が見つかる可能性も高く、合併症の問題も出てきます。

同じ40代で妊娠を希望したとしても、20代や30代の時に卵子を凍結したうえで治療を行うとそのリスクを下げることにつながります」

●必ずしも妊娠が可能になるわけではなく、費用もかかる

「先ほどもお話ししたように、正常な状態で解凍できる確率は約30%とされていますので、凍結した卵子が必ずしも全部使用できるとは言い切れません。複数の卵子を凍結していても、妊娠が難しくなる可能性は残ります。

また、卵子凍結には維持費も必要となります。保存期間が長ければ長いほど費用もかさみますので、経済的なことも考えたうえで選択することが大切です」

妊娠・出産から子育てのことも考える

妊娠・出産から子育て

「卵子凍結は将来の妊娠の選択肢になりますが、しっかりとライフプランを考えたうえで選択していただきたいと思います。

医療が発展したことによって長生きが可能になってきましたが、生殖機能の寿命は江戸時代から変わりません。それは、身体的に卵子を採取するタイミングや妊娠・出産を経験するのに適した年齢も変わっていないということです。すなわち、出産後の子育てについても考慮すべきです。

そのことを踏まえたうえで、妊娠や出産のタイミングをはじめ、子育てのことも考えて人生設計をしていきましょう。また、卵子凍結には一定の費用が必要ですので、マネープランも人生設計には必要な項目です。妊娠、出産はゴールではなく、子育てのスタートであるという認識を持つことも大切です」

卵子凍結を選択肢のひとつとして捉えるためには、基本的な知識や知りたい情報をしっかりキャッチアップすることが大切です。卵子凍結についてより詳しく知りたいという場合は、『医療法人財団 小畑会 浜田病院』をはじめとした、認定機関に相談してみてください。

(※)ガラス化保存法
胚や卵子の細胞内液を凍結保護剤に置き換え、すぐに液体窒素内で凍らせることで細胞内に水晶を作らずにガラス化温度まで細胞内温度を下げる方法。

 
執筆/木川誠子

No.00108

浜田病院院長 合阪幸三先生

医学博士。専門は生殖内分泌学、不妊症の診断と治療、周産期医学、更年期障害の治療など。東京大学医学部非常勤講師などを兼任。現在は、『医療法人財団 小畑会 浜田病院』の院長である。