妊娠・出産

規則正しい生活から妊娠・出産・子育てまで。ライフプランを思春期から考えることの重要性

ライフプランを立てることで、健康課題に向き合いやすくなると言われています。それは、ライフプランを考えることは、結婚、妊娠、子育てなど、さまざまなライフイベントについて考えることでもあり、その選択をしていくためには、健康に関する知識や情報を得る必要があるからです。

今回は、「ライフプランは若いうちから考える必要があり、自分の選択が将来に影響します」と教えてくれた、岡山大学大学院保健学研究科の中塚幹也教授に、思春期から考えたいライフプランについてお伺いしました。

大学生の3割は50~60代でも出産可能だと思っている?

赤ちゃん

「大学生を対象にした10年ほど前のある調査では、性別に関係なく3割の学生が、女性は50~60代でも子どもが産めると思っているという結果でした。現在は不妊治療が進歩しているとはいえ、40歳の体外受精成功率は約10%。高齢になればなるほど、妊娠率は低下し、妊娠をしても妊娠中や出産時にリスクが高くなるのが実情です。また、思春期から身体の不調や月経トラブルをそのままにしておくと、将来の妊娠に悪影響が出る可能性もあります。

例えば、痩せすぎにより月経が止まってしまった場合、体調の悪化や不妊につながる可能性が高まりますし、性感染症は男女ともに不妊のリスクを高めます。性別、年齢に関わらず、また、妊娠を望む、望まないに関わらず、「知らなかった」「誰も教えてくれなかった」とならないためにも、先を見越して知識を得ること、自らの健康管理を行うことはとても大切です」(中塚幹也教授・以下同)

生殖機能のピークは20代。だから、思春期から考える

「子どもが欲しいと望み、性行為をすれば自然に妊娠すると思われがちですが、必ずしもそうではありません。

人間の生殖機能は20代でピークを迎えます。卵子や精子といった生殖機能は加齢の影響を受けやすいこともあり、30代後半になると妊娠率は急激に下がっていきます。だからこそ、生殖機能や妊娠に関する知識、自然妊娠が困難になる病気、さらに、不妊症の場合の選択肢などは、思春期のうちから知っておくことが重要です。そのうえでライフプランを考えると、選択肢の幅は広がるでしょう」

プレコンセプションケアを知っておこう

「ライフプランを考えるうえで、プレコンセプションケアは重要です。プレコンセプションケアは、“妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと”とWHO(世界健康機関)により定義づけられているように、病気で妊娠することが難しい方の体調を整え、妊娠に適した状態にすることと捉えられていました。

しかし、現在ではもっと広く捉え、将来子どもを持つ可能性を考えながら生活習慣を整えて、妊娠・出産に関する知識を得ること、自分や生まれてくる赤ちゃんが健康に過ごせるように準備すること。すなわち、妊娠した時に困ることのないよう、妊娠中に発生する病気や出生前診断の知識を得ること、また、パートナーとの関係性、社会との関わり方を考えること、さらには、卵子や精子の凍結保存など、将来に備えることも含めた内容になっています」

 

生活習慣は思春期から意識しよう

プレコンセプションケアの視点から考えると、性別に関わらず、思春期から意識したいことがあります。その中でも基本的な項目を中塚教授に教えていただきました。

・適切な食事・運動・睡眠をしっかりとる

「食事・運動・睡眠をしっかりとることで、健康が維持できるようになります。運動は、血流がよくなり、筋肉量が増えるだけでなく、心の状態にもよい影響を与えますので、積極的に行いましょう」

・適正体重(BMI)を知り、低体重にならない

「過度なダイエットなどで体重が減少すると、月経が止まり、不妊の原因になることがあります。BMI=体重(kg)/身長(m)× 身長(m)の値が、18.5~25が普通、それ以下であればやせ、それ以上であれば肥満の目安です。適正体重(㎏)=22×身長(m)×身長(m)になりますので、自分の適正体重(BMI 22程度)を知っておきましょう」

・月経に関するトラブルを放置しない

「月経不順や不正出血などがある場合は多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)、激しい月経痛などは子宮内膜症やチョコレート嚢胞の可能性があります。そのままにしておくと、健康状態や将来の妊娠に影響する可能性がありますので、気になる場合は早めに婦人科を受診しましょう」

・性感染症を知り、予防する

「性感染症は、放置していると不妊の原因になる場合があります。中でもクラミジアは卵管を傷つけて不妊の原因になりますし、梅毒は妊娠中に感染すると、早産や赤ちゃんの病気につながります。性感染症を知り、しっかり予防しましょう」

・男性も病気に気をつける

「例えば、おたふくかぜに感染したり精巣の血管が腫れたりすると、精子が少なくなることがあります。また、間違った方法でのセルフプレジャーは、勃起や射精の障害につながりますので、必要な知識を得て行いましょう」

 

ライフプランでは、出産後のことも想像しよう

ライフプラン

「ライフプランというと、妊娠・出産のタイミングをいつにしたらよいかという点がフォーカスされがちですが、その後の子育てについても考えておく必要があります。特に、出産後に頼れる機関やサービスを知っておくと安心です。

公的あるいは民間のサービスとしては、乳幼児と保護者が一緒に遊んで過ごせる子育て広場や、子どもの送迎や預かりなどを地域で支えるファミリーサポートセンター事業などがあります。また、保健センターや児童館、各地の助産師会などでは、子育ての相談も可能です。同じ月齢の子を持つ親と話したり、子ども同士で一緒に遊んだりできる場所や、相談窓口があるということを知っておくと安心できます。

また、子育てと仕事との両立も大きな課題です。パートナーとの連携が大事ですので、男性も同じような意識を持って、妊娠や出産、子育てのことを学んでおくことが必要です」

自分で拡げられるライフプラン

中塚先生の話を伺い、ライフプランにはさまざまな選択肢があり、正解も不正解もないことがわかりました。

将来どんな仕事に就きたいか考えるのと同じように、結婚するかしないか、子供を持つか持たないか、子供が産まれた場合はその後どうやって育てていくのかなど、人生の中で枝分かれする場面はたくさん訪れます。意識せずに過ごしていると、もしかしたら後悔する時が来るのかもしれません。そうならないためにも、性別に関わらず、自分の考えを持って適切に判断していくという経験を、早いタイミングから行うことが重要だと感じました。ライフプランの選択肢と可能性が拡がるように、友人たちと、また家族で話し合いながら、必要な知識を得ていきましょう。

執筆/松岡真生

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岡山大学大学院保健学研究科 中塚幹也教授

医学博士。岡山大学大学院保健学研究科、同医学部保健学科、同生補助医療技術教育研究(ART)センター 教授であり、岡山大学病院リプロダクションセンター、岡山県不妊専門相談センター「不妊・不育とこころの相談室」センター長などを務める。『岡山大学大学院保健学研究科 中塚研究室』では、産婦人科医、助産師、保健師、不妊カウンセラー、看護学生などが集まり、生殖過程に関するテーマを中心に、女性のライフスタイル全般をはじめ、ジェンダー、性差などに関連した研究を行っている。2024年2月に制作した『ライフプランを考えるあなたへ 未来への選択肢』は、研究室ホームページからダウンロード可能。